はじめに
福岡工業大学の田井研究室が進める新たな研究は、氾濫のリスクを生む「堆砂」を活用し、海の水産資源を復活させるという重要な試みです。堆砂はダムの底に堆積した土砂であり、全国のダムで計画された堆砂量を超過する事例が増加しています。この状況は、貯水容量の減少や取水障害を引き起こすだけでなく、大雨などの災害時に氾濫防止がうまく機能しないリスクを抱えています。
堆砂の現状
近年、ゲリラ豪雨による災害が増える中、堆砂の進行が問題視されています。熊本県の緑川ダムでは、堆砂容量が93.6%に達しており、早急な対応が求められています。堆砂の処理方法としては、排出ゲートの新設や、処理地への運搬といった選択肢がありますが、環境への影響やコストといった課題も抱えています。
ダムの堆砂をアサリに活用
田井研究室の研究では、緑川ダムの堆砂を利用して、アサリの生息環境を整える取り組みを行いました。昨年3月、堆砂土を有明海の干潟に運び入れ、アサリの生息砂床として散布しました。この堆砂土は、粒子径が比較的大きく、潮流による流出が少ないため、アサリが安定して定着できる環境を提供します。
堆砂の特性はアサリの成長を促す効果があり、散布後約半年の間に実験地点でアサリが増加し、特に大きく成長した個体も多く見られました。これは、堆砂がアサリの生育にとって良好な環境を与えた結果であると考えられます。
研究の評価と成果
本研究の独自のアプローチは高く評価され、令和7年度河川基金研究成果発表会では環境大臣賞を受賞しました。また、研究を進めるために地元漁業組合と連携し、地域の漁業活動への影響を考慮することも重要視されています。
今後の展望
今後は、アサリの成長を促した要因について詳しい分析を行い、水産資源復活に寄与する知見を得ることを目指します。堆砂がもたらす新たな可能性に注目が集まっています。
結論
福岡工業大学の田井研究室の取組みは、堆砂という課題を逆手に取り、環境保全と水産資源の復活を同時に実現する画期的なプロジェクトです。アサリの生息環境を整えることにより、持続可能な海洋資源の実現に向けた道が開かれるかもしれません。今後の研究の進展が期待されます。