新たな国際市場へ進出する熊本の水産ベンチャー
この度、熊本県天草に本社をおく水産ベンチャー株式会社ふく成が、シンガポールのVVIP層向けに育てた真鯛とブランドとらふぐ「六福®」を正式に提供することが決まりました。2025年7月からシンガポールへの輸出開始が予定されています。そのきっかけは、ふく成が大切にしている"家庭の味"。
漁師飯が生み出す心のつながり
シンガポールの著名シェフが、ふく成を訪問した際に経験したのは、通常の飲食体験とは異なる“家庭の食卓”でした。この訪問では、普段の家庭料理である漁師飯が出されましたが、その背後には御所浦で紡がれた自然、家族の生活、漁師たちの思いが色濃く反映されていました。
さらに、シェフたちは夕食を共にしながら、魚を育てる父や叔父からその生産の背景を聞くことができました。この体験は、家庭の味が大切にされた文化を通じて、シェフとふく成の深いつながりを形成しました。
家族の想いを込めたおもてなしの設計
ふく成では、体験型設計を重視しています。シェフたちは海上タクシーに乗り、御所浦の美しい自然を楽しみながら、養殖場を訪問することができます。この海上タクシーの導入は、ふく成が客に特別な体験を提供するための一環です。実際に魚が育つ現場を見学することで、シェフは深い感銘を受け、ふく成の魚を料理に使用しようと思うようになるのです。
取締役の母、平尾ミサエ氏は、「その時に出された料理は、普段私たちが作っているものです。この普通の食事が多くの方に喜んでいただき、会社に貢献できたことが私たちも嬉しかった」と語りました。本当に作り慣れた料理がVVIPの食卓に並ぶことで、どれほどの感動が生まれるのかを示しています。
技術と共創で描く新たなビジョン
ふく成の成功の裏には、技術的革新が存在します。「Firesh®︎」と呼ばれる鮮度保持技術は、賞味期限を最大30倍に延ばすことに成功しており、魚の価値を最大限に引き出しています。この技術を持つことで、ふく成は競争の激しい市場でも生き残りをかけることができているのです。
福成の理念は、莫大な利益を追求することではなく、共感をもって商品を届けることにあります。「この人たちから買いたい」と思ってもらえるような、心の接点を大切にしています。生産者自らが自分たちのストーリーを語り、消費者と深く結びつく流通モデルを確立したふく成は、一次産業の新しい形を示し続けています。
シンガポールでの成功が未来を開く
ふく成の挑戦は国内外で高く評価されており、2025年にはアジアでの女性起業家表彰「BELLA AWARDS」において受賞も果たしています。この受賞は、国際的な信頼を築く大きな後押しとなり、シンガポールでの展開に期待を寄せてもらえる要因となりました。
シェフは、ただ味や品質だけでなく、心を動かすストーリーに魅了されたのです。漁師飯の体験や生産者たちの熱意が、ふく成の魚を選ぶ決定的な要因となったといえます。本稿では、熊本・天草の水産業が抱える課題を、ふく成の挑戦を通じて見ていきます。物語を軸とした新しい流通モデルが、どのように一次産業の未来を奏でるのか。これからの展望にも一層注目が必要です。