宇宙活動がもたらした生命必須元素の生成メカニズムを解明
最近、明治大学の佐藤寿紀講師や京都大学の松永海博士後期課程2年、内田裕之助教らの研究グループが、X線分光撮像衛星「XRISM」によるカシオペア座Aの精密観測を通じて、巨大な恒星内部で塩素とカリウムが膨大に合成されていることを解明しました。この発見は、宇宙における生命必須元素の供給源として恒星内部の活動が果たす重要な役割を示唆しています。
この研究成果は、科学雑誌『Nature Astronomy』のオンライン版に掲載されました。
研究のポイント
- - XRISMの優れた分光能力による観測により、超新星爆発の残骸「カシオペア座A」を引き起こした巨大な星の内部で、多くの塩素とカリウムが合成されていた証拠を得ることができました。
- - 地球環境や生命に不可欠なこれらの元素は、宇宙での存在量が理論的な予測よりも桁違いに多かったものの、それがどのように生成されたのかは長年の謎でした。
- - 観測結果によれば、恒星の自転や連星相互作用、核燃焼層の合体など、激しい内部運動が元素の生成を促進したと考えられます。
- - 身近な元素の宇宙起源が不明だったところに、新たな証拠が確認され、これが超新星爆発を通じて宇宙に放出されていることが明らかになりました。
背景
私たちの身体や周囲の物質を構成する元素は、恒星や超新星爆発での核融合反応で生成されていると考えられています。しかし、元素の起源は多くの場合謎に包まれています。特に塩素やカリウムは私たちにとって身近で重要ですが、これらの宇宙での存在量は理論的な計算よりも遥かに多いとされていました。
今回、XRISM衛星の分光観測によって、重さが太陽の約10倍以上という巨大な星が超新星爆発を起こす前の内部で塩素とカリウムが豊富に生成されていたことが確認されました。この生成過程は、星の自転や連星との相互作用などに起因する内部の複雑な動きがあったためであることも分かりました。
研究方法
本研究のカギとなったのは、XRISMに搭載された高分解能分光装置「Resolve」です。この装置は、「マイクロカロリメータ」と呼ばれる技術を利用しており、従来의検出器とは異なり、非常に高いエネルギー分解能でX線を観測できます。塩素やカリウムといった奇数番元素は、偶数番元素に比べて存在量が少なく通常の検出器では捉えられにくかったのですが、Resolveを使うことで初めて検出が可能となりました。
研究チームは、超新星残骸「カシオペア座A」を観測し、多くの塩素(Cl)とカリウム(K)の放射線を高確度で確認しました。この結果、観測された量は通常の理論に比べて著しく多かったことが分かったのです。また、元素の分布が「酸素の多い領域」に集中していることが示されたことから、塩素やカリウムは超新星爆発が起きる前、すなわち恒星が生きている段階で合成されていた可能性が高いとされます。
結論
星は静かに輝いているように見えますが、その内部では激しい核融合反応が繰り広げられています。今回の観測結果は、星の自転や連星との相互作用、異なる核燃焼層の混合が元素を効率的に生成する一因であることを示しました。塩素やカリウムといった生命の材料は、こうした活発な星たちの内部活動によって供給され、超新星爆発を通じて宇宙に散布されてきた可能性が高いです。
今後、研究チームはXRISMや後継のX線観測衛星を利用して、他の超新星残骸においても同様の元素の生成メカニズムを調査していく予定です。これにより、宇宙の様々な元素がどのようにして供給されるのか、その「宇宙のレシピ」の解明に寄与することを目指しています。