旭化成が新たな高みへ
旭化成株式会社が、令和7年度全国発明表彰において、最も権威ある「恩賜発明賞」を獲得しました。この受賞は、同社が開発した「ニッケルを用いた電極長寿命化技術」に対する評価です。この技術は、電解プロセスにおける電極の劣化を防ぎ、長期間安定した運転を実現させることを目指しています。
技術の背景
旭化成の電解プロセスは、イオン交換膜を利用して食塩水を電気分解し、塩素や水酸化ナトリウム(水酸化ナトリウム)あるいは水素を生成します。1975年からこのプロセスを販売し続け、世界中で30か国以上、160以上の工場で採用されています。
これまで、電解装置が停止した際、逆電流の影響で陰極が劣化するという大きな課題がありました。特に、塩素や苛性ソーダの需要に応じた運転停止や設備トラブルによって電解装置が止まる際に、逆電流が発生し、電極の寿命が縮まるという問題が発生していました。
このような状況では、電解電圧が上昇し、消費電力の増加を招くため安定した運転が難しくなります。従来は機械設備による制御でこの逆電流を抑制する努力がされていましたが、動作不良や操作ミスのリスクも大きいものでした。
革新的な解決策
今回の受賞の理由となった技術は、逆電流を抑えるための物理的な機器に依存せず、特定の多孔質構造を有するニッケルを逆電流吸収層として使用するものです。これにより、陰極に対する逆電流の影響を無効化でき、劣化を防ぐことが可能になりました。
本技術では、逆電流吸収層を設置することで、化学反応を利用して陰極の電位を制御します。陰極が特定の電位に達する前に逆電流吸収層で反応を起こさせることで、劣化の進行を抑制することが実証されました。
技術の実用化と応用
その成功の要因として、旭化成は溶射法を用いてニッケルの逆電流吸収層を形成しました。この技術は、工業化が可能で、多孔質でありながら高い強度を持ち続ける特性を与えています。さらに、この層は、電解停止時と再開時にもその機能を損なうことがなく、陰極を安定的に保護します。
既にこの技術を搭載した電解装置は世界中の化学メーカーに供給されており、日常生活に欠かせない塩素や苛性ソーダの安定した製造に貢献しています。そして、さらなる技術の拡大も期待されています。加えて、本発明の技術はグリーン水素製造用アルカリ水電解システムへの展開が見込まれています。
受賞者の声
受賞について、船川明恭氏は「塩素や苛性ソーダは暮らしを支える重要な原料です。この受賞をきっかけに社会への貢献をさらに強めていきたい」と述べました。また、蜂谷敏徳氏は「トラブルに直面しながら、多くの協力者と共に努力した成果が評価され大変嬉しい」と喜びの声を向けました。
この受賞は、旭化成の持つ技術力の高さを証明し、同社が今後も電解技術の開発に邁進する姿勢を再確認させます。
今後、業界全体の技術革新に寄与することが期待されます。