AI時代の心の声を考える『こえラボ』の新たな挑戦
生成AIによって現代社会が急速に変わる中で、我々は「思い」の価値を再評価する必要に迫られています。そんな時代に開設されたのが、心の“こえ”と対話するための新たなメディア『こえラボ』です。編集長の言葉を借りれば、「我々は二種類の声を持っている」といいます。一つは他者と共有する社会的な“声”、もう一つは心の内に響くあなただけの“こえ”です。
私たちは普段、思考の中で浮かんだ言葉を精選し、それを他者に伝えるため形にするわけですが、その際に重要なのは実は“声”の部分、すなわちどのように表現するかです。しかし、この現代社会の中では「何を思っているか」よりも「どう伝えるか」が優先されがちです。書店やネット上には「伝え方」の技術に関するコンテンツが山のようにあります。
このような状況は、一見するとコミュニケーションを円滑にする助けになるかもしれませんが、実は我々の存在意義を揺るがす結果にもつながりかねません。特に、8代亜紀氏のお別れ会の際に流れた、AI合成による彼女の声が持つ影響力について考えてみましょう。この“声”はもちろん、彼女本人のものではなく、テクノロジーによって作られたものです。しかし、参列者たちはそれを聞いて涙を流しました。
これは一つの証明です。つまり、我々は“Hear”することよりも“Listen”することが難しい社会に生きているのかもしれません。AIによって生成された“声”に感情を動かされ、本物の“こえ”から目を逸らす。この現象は今後、デジタル空間においてますます日常化していくでしょう。そうなると、我々の心の中で生まれる感動が本当に自分から生まれたものなのか、疑わしい時代に突入することになります。
「こえラボ」は、そのような社会に一石を投じることを目指しています。具体的には、自分自身の“こえ”に向き合うための様々な形式の作品を通じて、内面の探求を促します。例えば、“こえ”を探る人物を描く小説や、“声”と“こえ”のズレに悩んだ経験をつづったエッセイ、さらには“こえ”の社会的なあり方を研究する論文の投稿を受け付けています。また、インタビュー記事なども通じて、様々な人の“こえ”と対話する機会が提供されます。
このプロセスは単なる耳を澄ます行為ではありません。そこにはさまざまな思考や感情が巡り、自分自身と真摯に向き合う姿勢が求められます。そうすることで、我々は“こえ”の持つ真の価値を見い出す手助けとなるのです。現代のAI技術の影響の中で、私たちが忘れてしまった心の声に再び耳を傾けることが急務です。
さらに、こえラボでは“こえ”をテーマにした寄稿作品を募集しています。誰かの“こえ”と向き合うきっかけを作りたいという思いを持つクリエイターの参加をお待ちしております。
これからの時代、AIによって作られた多様な“声”の中から、自らの“こえ”を見出す旅が求められます。『こえラボ』がそのきっかけとなることを願っています。