静岡発、カツオ加工廃水資源化の可能性
水産業から生じる廃水の処理は、長い間環境問題の一つとして捉えられてきました。しかし、静岡大学の研究チームがみつけた新たな展望は、廃水を単なる負荷とするのではなく、資源としてそのまま活用することができるというものです。
研究の背景
静岡県焼津市のカツオ加工施設から得られた未処理の原廃水は、大量の有機物と栄養素を含みます。この廃水は、これまで「処理が困難」とされていましたが、本研究では藻類と微生物の共生系を用いて、その廃水を培地に転換する実験が行われました。
研究者の取り組み
研究を主導したのは、静岡大学大学院総合科学技術研究科の加賀稜健さん(修士1年)と長尾遼准教授です。彼らは、未処理のカツオ加工廃水をそのまま用いて、現地由来の藻類と微生物の複合系の培養を進めました。結果、9日間の培養期間で驚くべき成果が得られました。培地は鮮やかな緑色になり、クロロフィル濃度は約5倍に増加しました。
廃水の資源化に向けた成果
培養中、溶存有機炭素(DOC)は85%も減少しました。また、リン酸イオンも約70%の低下を見せ、次第にアンモニウムイオンが減少していく様子が観察されました。これは、藻類が有機物を利用し、細菌がその有機物を分解するという「有機態窒素の鉱化」と「同化」の連携が成されていることを示しています。
さらに、16S/18S rRNA遺伝子解析によって、クロレラという光合成藻が優占し、細菌群(ErythrobacterやParacoccusなど)が共存していることも確認されました。このことは、これらが相互に依存しあい、安定した代謝ネットワークを形成していることを示唆しています。
今後の展望
本研究の成果は、水産加工廃水を「廃水」としての枠を超えた資源として捉える新たな考え方を提示するものです。将来的には、肥料や飼料、バイオエネルギーとしての利用が見込まれ、多様な応用が期待されます。
長尾准教授は「未処理の廃水を希釈や前処理なしで藻類と微生物の共生力で利用できることが示され、これは実装上の大きな強みです。今後はこのシステムのスケールアップや反応器設計に取り組む予定です」と述べています。
最後に
本研究は2025年10月29日、学術誌「Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry」に掲載される見込みです。水産加工廃水の資源化は、持続可能な廃水利用のモデルケースとして、今後の水産業界に新たな可能性を提供してくれるでしょう。