菌類ネットワークによる植物間のエネルギー分配の新たな発見
近年、植物と菌類の関係性が注目されていますが、その中でも特に興味深いのが、菌根菌を通じた炭素の移動についての研究です。千葉大学大学院教育学研究院の大和政秀教授と神戸大学大学院理学研究科の末次健司教授を中心とした研究グループが新たに実施した栽培実験では、リンドウ科のコケリンドウがアーバスキュラー菌根菌を介して他の植物から炭素化合物を獲得する様子が明らかになりました。この成果は、植物の成長戦略や配分戦略を理解するうえで非常に重要な知見を提供します。
研究の背景
植物は、菌根菌という微生物と共生し、光合成で得た炭素化合物を分け与えることでお互いに利を得ている相利共生の関係を築いています。一方で、ラン科やツツジ科などの特定の植物群は、光合成機能を失い菌根菌から炭素を受け取る部分的な菌従属栄養植物として生活しています。
従来の研究では、炭素同位体比を用いて土壌中の菌類からの炭素獲得を推定していました。しかし、アーバスキュラー菌根菌は担子菌類と異なり、炭素同位体比の特徴が明確ではないため、その存在を証明することが困難でした。そのため、本研究ではC4植物とC3植物を利用した新たな方法で、炭素移動のメカニズムを明らかにしました。
研究成果の要点
研究チームはU字型ポットを設計し、非常に細かい網目のナイロンメッシュで区分した培養環境を構築しました。このメッシュはAM菌の菌糸が通れる一方で、植物の根が直接接触することは防ぎます。この方式により、C4植物の呼吸から生成される炭素がコケリンドウの成長に及ぼす影響を低減させることができました。
実験では、C3植物とC4植物を栽培し、共にコケリンドウを育成した結果、C4植物と共栄養したコケリンドウは、C3植物と共栄養したものに比べて実際に高いδ13C値を示しました。このことは、菌類を介して炭素化合物が植物間で移動し、コケリンドウの成長に寄与することを示しています。
今後の展望
今後、このU字型ポットを用いた栽培方式は、他の植物種におけるAM菌を介した炭素移動の検証にも利用可能です。この発見が進めば、地下の菌糸ネットワークは単なる養分吸収だけでなく、植物間でエネルギーを分配する役割を持つことが示されるかもしれません。これにより、植物の生態的ニッチや多様性を理解するための新たな視点が得られることが期待されています。
この研究は、日本の科学研究費助成事業による支援のもとで実施され、これまでの植物と菌類の関係に対する見方を大きく変える可能性を秘めた重要な成果です。