光ファイバ伝送技術における新たな世界記録
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が中心となった国際的な共同研究グループが、画期的な光ファイバ伝送技術を開発し、毎秒430テラビットという驚異的な伝送容量の世界記録を樹立しました。この成果は、国際標準に基づいたカットオフシフト光ファイバを使用したものであり、今後の通信インフラにおける利活用が期待されています。
革新的な伝送技術の背景
近年、デジタルデータの需要が急増し、特にAI技術やデータ駆動型サービスの発展によって、光通信の伝送容量はますます重要なテーマとなっています。この背景には、光ファイバ通信におけるマルチバンド波長多重(WDM)技術の進展があります。この技術は、既存の光通信インフラに新しい波長帯を追加することで、通信容量を効率的に拡大できることから、経済的な解決策として注目されています。
NICTは、従来のC帯やL帯に加え、新たにS帯やE帯の波長帯を活用した大容量伝送システムの開発にも成功しており、さらなる伝送容量の向上のためにO帯やU帯の研究にも取り組んでいます。しかし、このような努力にも限界があり、新たな光ファイバ伝送技術の開発が不可欠であることは明らかでした。
世界初の短波長O帯での伝送実験
今回の成果として、NICTは国際共同研究の枠組みの中で、光ファイバの短波長O帯におけるマルチモード(3モード)伝送を実証しました。この実験により、O帯の伝送容量が従来の約3倍に拡大されました。この技術は、波長に基づく複数の伝送経路を利用することで、従来の設計を超えた大容量伝送を実現した点が特徴です。
特に注目すべきは、O帯での3モード伝送と、E帯、S帯、C帯、L帯の単一モード伝送を組み合わせた、統合光伝送システムの開発です。このシステムでは、209波長の3モード伝送に加え、706波長の単一モード伝送により、合計で30.1テラヘルツという広帯域光信号を生成することが可能となりました。これにより、カットオフシフト光ファイバを通じて10 kmの伝送を行った際には、理想的な仮定の下で毎秒430.2テラビットのデータレートに達しました。
今後の展望
この成果は、将来的なBeyond 5Gインフラの発展に向けた大きな一歩となります。NICTは今後も、超大容量を実現する光ファイバ伝送技術の研究に専念し、通信インフラの改善に努めていく方針です。また、既存インフラとの高い互換性を保持しつつ、導入コストや期間の短縮を図ることも大きな目標としています。
今回の実験結果は、デンマーク・コペンハーゲンで開催された第51回欧州光通信国際会議(ECOC 2025)で発表され、最優秀ホットトピック論文として高く評価されました。これからの光通信技術の進化に期待が寄せられています。