研究の概要
千葉大学の研究チームによる新しい研究が、食習慣が記憶能力と脳機能に及ぼす影響を調査しました。この研究では、高脂肪食(HFD)を摂取することで、脳の神経細胞内にある重要な機能がどう変化するのかが明らかにされました。
研究の背景
近年、多くの人々が高脂肪食を取り入れており、その影響が生活習慣病だけでなく、認知機能の低下につながるという懸念も高まっています。特に、アルツハイマー病などの神経変性疾患では、食事からくる代謝ストレスが発症や進行に寄与していることが明らかになっています。しかし、高脂肪食が記憶形成に及ぼす影響の具体的なメカニズムは未だ謎に包まれています。
オートファジーの重要性
オートファジーとは、細胞内に存在する不要なタンパク質や損傷した細胞小器官を分解・再利用する仕組みです。この過程には、リソソームという細胞小器官が重要な役割を果たしています。オートファジーやリソソーム機能が低下することは、記憶障害や神経変性疾患と関連しています。
研究の方法
本研究では、ショウジョウバエをモデルとして用い、7日間高脂肪食を与え、その影響を評価しました。結果、短期記憶には変化が見られなかったものの、中期記憶や長期記憶が低下することが確認されました。
脳細胞の解析
高脂肪食を摂取したショウジョウバエの神経細胞を解析したところ、オートファジーの活性が低下し、特定のタンパク質が細胞内に蓄積していることがわかりました。また、オートファゴソームとリソソームの数が増加しているにもかかわらず、オートファゴソームとリソソームが融合した後の構造の数には変化がなかったことから、両者の融合が抑制されている可能性が示唆されました。
記憶低下の回復
さらに、研究者たちはオートファジーを活性化させることで、高脂肪食による記憶の低下が回復することを実証しました。具体的には、オートファジーを活性化する遺伝子の過剰発現や特定の遺伝子の抑制を行った結果、中期記憶の回復が確認されました。
今後の展望
この研究成果は、食習慣が脳機能に及ぼす影響を深く理解するうえで重要な知見を提供します。また、オートファジーをターゲットとした介入方法が、記憶障害や神経変性疾患の新たな予防・治療手段になる可能性が期待されます。
用語解説
- - 短期記憶: 学習直後から数分程度保持される一時的な記憶。
- - 中期記憶: 学習後数十分から数時間の間に持続する記憶。
- - 長期記憶: 学習後24時間以上保持される持続的な記憶。
研究資金
この研究は、日本医療研究開発機構や科学研究費助成事業の支援を受けて実施されました。
論文情報
研究成果は、国際学術雑誌PLOS Geneticsに2025年8月に掲載されました。
論文タイトル: High-fat diet impairs intermediate-term memory by autophagic-lysosomal dysfunction in Drosophila
著者: Tong Yue, Minrui Jiang, Kotomi Onuki, Motoyuki Itoh, Ayako Tonoki
DOI: 10.1371/journal.pgen.1011818