南極犬たちの奇跡の冒険
日本初の南極犬ゾリ隊の物語が新装版として再登場。『南極犬物語〈新装改訂版〉』では、カラフト犬のタロとジロを中心に、震える心の物語が語られています。
物語は北海道稚内で誕生した3匹のカラフト犬の赤ちゃん、タロ、ジロ、そして弟のサブロから始まります。サブロは南極に向かう前に病気で命を落とすものの、タロとジロは元気に成長を遂げ、仲間たちとともに南極観測船『宗谷』に搭乗して南極へと旅立ちます。この冒険には、1匹の三毛猫「たけし」の姿もあり、隊員たちのアイドルとして愛されています。
南極に到着した観測隊は、さっそく昭和基地を建設し、犬ゾリ隊の必要性がますます高まっていきます。氷や雪に包まれた南極での安全な移動手段が求められる中、タロとジロは過酷なミッションを遂行します。彼らは何日もかけて観測を行い、隊員たちの生活と研究を支えるために力強くソリを引いて走り続けました。
しかし、第一次観測隊と第二次観測隊の交代時に起きた悲劇は、越冬隊の運命を大きく狂わせます。氷の海によって接岸不可能となり、しかも悪天候が続く中で、越冬隊の派遣は断念され、タロとジロも異なる運命を歩むことになります。ある観測旅行では、行方不明になった犬たちのことも思い出され、その中で抱えられる人間の心情も心に響きます。この物語は、ただの児童書ではなく、犬たちが主役でありながらも人間の心も描き出しています。
さらに、今回の改訂版には8ページのカラー口絵が新たに追加されており、南極での犬たちの表情や彼らの冒険の様子をよりリアルに感じられる構成となっています。
東京タワーのふもとに立つカラフト犬たちのブロンズ像は、昭和34年に建設され、現在は立川市の国立極地研究所に移設されています。おそらく、南極観測隊と犬たちの物語は一つの文化として、日本人の心の中で生き続けています。
この感動的な物語は、たとえ時代が変わっても、人間と犬たちの絆を深く刻み込んでいます。そして、令和の時代にあたる今こそ、世代を超えた感動の実話を再認識するべき時です。
著者の綾野まさるは、いのちの尊厳をテーマに書き続けてきたノンフィクション作家。今回の改訂版も、彼の思いが詰まった一冊となっています。この機会に、『南極犬物語〈新装改訂版〉』を手に取り、犬たちの勇敢な冒険を心ゆくまで楽しんでみてはいかがでしょうか。