土壌汚染の新たな解決策
背景
近年、土地の土壌が油で汚染されている事例が世界中で増加しています。特に、ガソリンスタンドや工場跡地が多く見られるブラウンフィールド問題が深刻化しており、実に日本国内では東京ドーム約5988個分に相当する2.8万ヘクタールが汚染されていると推定されています。従来の「掘削除去法」では、汚染土壌を運搬して機械で処理する必要があり、費用が高くつくことが課題となっていました。
そこで、花王は汚染土を動かさずその場で洗浄可能な新しい洗浄剤を開発することに着目しました。
新しい洗浄剤の特長
この新しい土壌専用洗浄剤は、油が酸素を含む土壌粒子の間に惹き付けられ、取り除くのが難しいという特性を解決すべく設計されています。 従来の洗浄剤では、75μm以下の小粒子に付着する油を効果的に引き剥がすことはできませんでした。しかし、花王の新洗浄剤は、土粒子の構造を分解し、さらに親水性へと変化させることで、油を効果的に取り除くことを可能にしました。これにより、土壌に水を加えて撹拌すると、土壌に付着した油が水中に浮き上がる仕組みが実現されました。
実験と効果
この新洗浄剤の効果を確認するため、株式会社タツノとの共同で、2024年7月に実験を行いました。模擬的に作成した油汚染土を使用し、水と洗浄剤を加え、重機で撹拌後に油と洗浄水を回収。評価には、環境省が定めたガイドラインに基づく評価基準を用い、油臭や油膜の有無、TPH(Total Petroleum Hydrocarbon)測定を行いました。
評価の結果、油臭は感じられないレベルに低下し、油膜も消失しました。また、TPHの値も5300mg/kgから240mg/kgに減少し、土壌専用洗浄剤による効果が明確に示されました。これにより、工場で汚染された土壌をわざわざ運搬する必要がなく、その場で効果的に洗浄できることが証明されました。
環境への配慮
また、洗浄に利用した排水の水質も評価され、水質汚濁防止法に基づく一般排水基準を満たしていることも確認されました。この洗浄方法は、伝統的な掘削除去法に比べ、CO2排出量を約30%削減できる可能性を示唆しており、さらなる環境負荷軽減にもつながるでしょう。
今後の取り組み
今回開発されたこの画期的な洗浄剤により、油汚染問題に対して大きな一歩を踏み出しました。今後は、ガソリンスタンドや工場跡地での実用化を検討し、さらにブラウンフィールド問題への解決を目指して研究を進める予定です。コスト、時間、環境への配慮を全て兼ね備えたこの洗浄剤は、今後の土壌浄化のスタンダードになるかもしれません。
参考情報
詳しくは花王の公式サイトや技術情報トピックスをご覧ください。