光の渦を物質に転写する新技術の開発
千葉大学の研究チームは、光の波面に複数の渦が同時に存在する「多重光渦」を物質に転写し、その構造を可視化することに成功しました。この技術は、一つの光で多数の微小物質を同時に操作できる可能性が示されており、キラリティー化学や渦の物理学など、さまざまな分野での応用が期待されています。
研究の背景と光渦の特性
渦は液体や気体に限らず、固体の表面にも存在し、この現象は長らく研究の対象とされてきました。光にも、波面の螺旋構造によって形成される「光渦」という特性が存在します。光渦は、光強度がゼロとなる特異点を中心に持ち、特殊な物理的特性を示します。これまでも研究チームは、単一の光渦を用いて物質表面に渦構造を転写していましたが、より複雑な「多重光渦」に関する研究はほとんど行われていませんでした。
研究成果の詳細
本研究では、グリーンレーザーを使って、異なる軌道角運動量を持つ2つの光渦を結合し、「円偏光多重光渦」を生成しました。続いて、この光を光応答性高分子材料であるアゾポリマーに照射し、物質の形状がどのように変化するかを観察しました。結果、アゾポリマーに渦に対応する突起が形成されることが確認され、光の特徴を活かして物質の質量移動を視覚化できる可能性が示唆されました。
光のスピン軌道相互作用とその意義
研究の中で注目すべきは、光のスピン角運動量と軌道角運動量が絡み合う現象です。これにより、多重光渦の大きさや位置が変化し、突起の数や形状も変わることが明らかになりました。この効果を利用することで、異なる物質を同時に操作する新しい方法が開発できると期待されています。
今後の展望と応用可能性
本研究の成果は、例えば微小機械部品の複雑な操作や、物質科学における渦の生成・消滅過程の解明に寄与するものと考えられます。特に多数の微小物質を同時に操作できる「光マニピュレーション」は、新しい科学的発見や技術革新を生む基盤となるでしょう。また、ねじれた突起構造を持つ物質加工の領域でも大きな進展が期待されます。
研究の背景
この研究は、科学研究費助成事業や様々な研究機関の支援のもとで行われました。研究結果は2025年11月18日に『Nanophotonics』に掲載される予定です。今後のさらなる発展が待たれる分野です。
参考文献と研究情報
論文タイトル: Surface relief formation with light possessing multiple vortices
著者: Junjie Zhao, Kazuro Kizaki, Atsushi Taguchi, Madoka Ono, Soki Hirayama, Takashige Omatsu
雑誌名: Nanophotonics
DOI: 10.1515/nanoph-2025-0387
以上の成果は、物質科学やナノテクノロジーの発展に大きな役割を果たす可能性があり、私たちの生活にも新しい技術革新をもたらすことが期待されます。