小児がん経験者における心機能障害の新たな研究成果
近年の小児がん治療の進歩により、長期の生存率が80%以上に達しています。しかし、これにより成人期以降の健康管理の重要性も高まっています。日本では、聖路加国際病院と順天堂大学医学部附属浦安病院が共同で行った研究により、小児がん経験者の心機能障害に関する新たな知見が得られました。
研究の背景
小児がんは、日本国内で年間約2000から2500人が罹患する疾患です。白血病やリンパ腫、肉腫などの治療には、主に化学療法や放射線治療が用いられますが、特定の抗がん剤、特にアントラサイクリン系薬剤の使用が心機能障害のリスクを高めることが知られています。この研究は、成人期を迎えた小児がん経験者の心機能障害の実態に焦点を当て、早期診断と治療の重要性を明らかにすることを目的としています。
研究手法と主な結果
聖路加国際病院の小児科チームは、2016年から成人期の小児がん経験者を対象に心臓の健康状態を調査するために人間ドックを実施しました。心臓超音波検査を通じて、108人の小児がん経験者の心機能を評価し、その結果、14%にあたる15人ががん治療関連心機能障害と診断されました。
この心機能障害は、左室駆出率が53%未満であることを基準として定義され、潜在的な心機能障害を示す左室長軸方向ストレイン値が低下していることが確認されました。特に、左心室の前部においてストレイン値が低く、限局的な筋肉の障害が存在することが明らかになりました。
アントラサイクリン系薬剤と心機能障害の関連
興味深いことに、心機能障害が認められた小児がん経験者の多くは、アントラサイクリン系抗がん剤を体表面積あたり300mg以上投与されていることがわかりました。研究により、がん治療関連心機能障害のリスクが累積使用量150mg以上であると特定されました。これは、今後の患者の管理において重要な指標となるでしょう。
今後の展望
この研究は、成人期における小児がん経験者の心機能障害のリスクを浮き彫りにしました。特に、アントラサイクリン系薬剤の投与を受けた患者は、定期的な心機能評価が必要です。心機能障害の早期発見には、左室駆出率だけでなく左室長軸方向ストレイン値も有効である可能性があります。
さらに、患者自身が受けた治療内容を把握し、「治療サマリー」を保管することが重要です。これにより、自身の健康管理に役立てることができます。今後は、心機能障害の早期発見と効果的な治療法を明らかにするための研究が進められるでしょう。
用語解説
- - 小児がん: 小児期に発症するがん全般のこと。
- - 晩期合併症: がん治療終了後に現れる合併症で、治療の影響が考慮されています。
- - アントラサイクリン系薬剤: 心臓への影響があるため、使用量に注意が必要な抗がん剤。
この研究成果は、日本心臓病学会が発行する学術誌「Journal of Cardiology」に掲載され、今後の小児がん治療後のフォローアップにおける重要な指標となることでしょう。