金融緩和が金融システムに及ぼした影響:過去25年の検証

金融緩和が金融システムに及ぼした影響:過去25年の検証



日本銀行は、過去25年の金融緩和策が金融システムに及ぼした影響について、詳細な分析結果を発表した。同分析は、金融循環の動向、低金利下の金融機関貸出、今後のリスク要因という3つの観点から行われた。

# 金融循環の動向



2000年前後や2000年代後半の金融危機直後の一時期を除き、金融機関の貸出態度は積極的であった。金融ギャップの推移からは、バブル期前後にみられたような大きな金融不均衡は蓄積されておらず、バブル崩壊後の金融循環の停滞局面も2000年代半ばにかけて解消した。2010年代以降は、民間債務の増加を背景に、金融循環の拡張局面が続いているものの、実物投資の増加や資産価格の上昇による影響は、これまでのところ限定的である。

# 低金利下の金融機関貸出



金融仲介活動において、2000年代前半にかけて企業向け貸出が減少した要因は、バランスシート調整と不良債権処理であった。その後、企業向け与信と経済活動水準とのバランスは概ね安定しているものの、金利感応度の高い不動産関連分野では貸出残高が既往ピーク圏にある。増加した貸出の中には、債務者の収入減少や貸出金利の上昇に対する耐性が相対的に低い案件も存在する。

金融システムに関する反実仮想分析からは、最近10年の貸出増加には、低金利や景気改善の効果に加え、地価の安定を背景とした担保価値の改善効果も寄与していたことが示唆される。

また、借入需要が構造的に減少したこと、金利低下による収益減をカバーするために金融機関が貸出量の拡大に努めたことから、貸出市場において、金融機関の貸出競争が強まった。こうした変化も、利鞘縮小や貸出増加につながったと考えられる。

# 今後のリスク要因



円滑な金融仲介活動のもと、企業の借入期間が長期化し、金利リスクの増加要因となっている。企業は、長期・固定金利の安定資金を確保し、借換リスクを抑制してきた。こうした企業の借入行動は、貸し手である金融機関にとって、低金利下において利鞘の確保につながった面がある一方、デュレーション・リスクを高める一因にもなっている。

借入を増やした企業の中には、収益力が改善し、財務の健全性が増した先があった一方、収益力の低迷が続く先もあった。前者の企業は、投資に積極的であり、景気改善に寄与してきたと考えられる。後者の企業は、低金利や景気改善のもとでも常に一定の割合を占めていた。同企業は、それ以外の企業に比べ、ストレス耐性が低い。今後、金利が上昇する過程で、同企業向けの貸出案件がランクダウンの対象となることが考えられる。

金融機関の収益力は、過去25年で大きく低下した。コア業務純益ROEは、最近では反転上昇しているものの、地域金融機関においては歴史的な低水準にとどまっている。その結果、ストレス耐性が低下している先もある。金利が短期間のうちに大きく上昇した際には、保有有価証券の評価損が金融機関の金融仲介活動の制約になることが考えられる。また、外部環境が変化した際、信用コストが増加することも考えられる。

金融緩和の影響:長期的な視点が必要



日本銀行が発表した金融緩和の影響に関する分析は、金融システムの現状を理解する上で非常に重要な資料と言える。過去25年の金融緩和策は、金融循環の安定化、企業向け貸出の増加といった効果をもたらした一方で、低金利環境下でのリスク要因も顕在化している。

特に懸念されるのは、企業の借入期間の長期化による金利リスクの増加、収益力の低い企業に対する貸出増加による潜在的な信用リスク、金融機関の収益力低下によるストレス耐性の低下である。これらのリスク要因は、今後金利が上昇する過程で顕在化し、金融システムの安定性を脅かす可能性も考えられる。

金融緩和策は、経済状況に応じて適切な政策である。しかし、長期的な視点に立ち、金融システムへの影響を慎重に評価していく必要がある。日本銀行は、金融システムの安定を確保するため、リスク要因のモニタリング、金融機関に対する適切な指導、政策対応など、積極的な取り組みを進めるべきである。

金融緩和の影響は、短期的な効果だけでなく、長期的な視点でも評価していく必要がある。金融システムの安定を維持し、持続的な経済成長を実現するためには、金融当局と金融機関双方による継続的な努力が不可欠である。

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