日本のエリートアスリートにおけるCOVID-19感染と復帰の実態
独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)と筑波大学体育系の中田由夫教授が共同で行った研究では、日本のエリートアスリート994名のCOVID-19罹患歴と競技復帰の日数を分析しました。この研究は、感染状況や選手たちの復帰ペースを把握することを目的にしています。
研究の背景
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、アスリートたちの競技パフォーマンスに大きな影響を与えることが知られています。急性期の症状にとどまらず、長期的な運動パフォーマンスの低下や心理的ストレスも懸念されます。特に、エリート選手は国際的な移動や大会出場の機会が多く、一般の人々とは異なるリスクにさらされています。そのため、彼らの競技復帰についてのデータが求められているのです。
研究の内容と成果
この研究は、2022年6月から2023年5月にかけて、JSCが設置するハイパフォーマンススポーツセンター(HPSC)において行われたメディカルチェックのデータに基づいています。994名のアスリートのうち、456名がCOVID-19に感染していました。感染の約88%は、第6波におけるオミクロン株の流行期に発生しました。
感染の傾向をみると、特に屋内競技のアスリートに多く見られ、バドミントンやバレーボール、ハンドボールのような競技種目で感染者の割合が高かったです。症状としては、発熱(80%)、喉の痛み(58%)、咳(44%)が主であり、無症状の選手は全体の11%でした。
興味深いのは、発症から競技復帰までの日数の中央値が10日であった点です。約90%の選手が14日以内に元の競技に戻っており、28日を超える長期的な離脱は全体の4%にとどまりました。この結果から、オミクロン株出現以降の復帰ペースが改善されている可能性が示唆されました。
COVID-19がもたらした影響
屋内競技としての特性、人との近接トレーニングが感染リスクに影響を与えたとの見方があります。研究により、長期的な離脱の率が、第1波から第5波では15%であったのに対し、第6波以降では3%にまで低下したことが分かりました。これには、感染拡大防止のための行動制限の変化も影響していると考えられます。
今後の展望
今後は、さまざまな競技種目や練習環境に応じた感染管理と、選手個々に合った段階的な復帰プログラムの開発が重要です。研究者たちは、ワクチン接種の状況や基礎疾患の有無も考慮した個別化された支援の検証を進め、長期的な健康維持や競技パフォーマンスの回復に向けた取り組みを期待しています。本研究はエリートアスリートにおけるCOVID-19感染の実態を明らかにし、今後の復帰判断や感染対策の基礎資料となるでしょう。
研究の意義
この研究は、エリートアスリートに対するCOVID-19の影響を具体的に示す重要な証拠を提供し、今後の競技復帰に関する基準作りや感染管理の向上に寄与することが期待されています。