国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)と天野エンザイム株式会社は、香料として使用される高純度のL-メントールを合成する新しい酵素を開発したことを発表しました。この研究の大きな特徴は、計算科学的手法を駆使して既存の酵素を効率的に改良した点です。メントールは、特有のミントの香りと清涼感で多くの製品に利用される成分ですが、その需要は増加の一途をたどっています。
近年、メントールは主にハッカやミントから抽出されてきましたが、需要の急増に対して供給が追いつかず、工業的生産の必要性が増しています。これに対処するため、研究者たちはバイオテクノロジーを活用して、特定の化合物に特異的に結合し、その反応を触媒する酵素に着目しました。特に、Burkholderia cepacia lipase(BCL)が有望視されており、産総研はその特性を生かしつつ、新たな改良型酵素を開発しました。
今回の研究では、複合体構造の特性を分子動力学シミュレーション(MDシミュレーション)で調査し、酵素改変のためのターゲット部位を特定しました。これにより、BCL酵素の性能を向上させ、L-メントールの辛味成分が著しく脱落するのを防ぎつつ、純度を最大99.4%eeまで引き上げることに成功しました。これは香料として使用されるために求められる99%eeを超えるものであり、業界において注目される成果です。
産業界におけるL-メントール需要の高まりの背景には、化粧品や医薬品など多種多様な応用があり、その市場規模は2032年には約12億ドルに達すると予想されています。工業生産の過程では、L-メントールの純度向上が大きな課題とされていましたが、今回の研究成果はその解決策を提供するものです。具体的には、新しく開発された酵素を利用することで、環境に優しく、さらには経済的なプロセスでの高純度L-メントールの製造が実現されます。
また、この新技術の詳細は2025年2月17日に「Journal of Agricultural and Food Chemistry」に掲載され、科学界でも注目されています。研究者たちは、今回の開発を通じて、環境負荷を抑えた製品が生まれる未来を見据えて、引き続き研究を進めていく予定です。
今後、この改良型酵素は工業化に向けてプロセスが進められ、持続可能な方法で高機能な製品が生産されることが期待されています。計算科学を基盤とした新たな酵素設計技術の発展は、次世代の製造業におけるスマートセルインダストリーの実現に寄与するでしょう。このような革新的な技術が、今後どのように産業界に影響を与えるかが注目されます。