アカエイの驚異的な腎機能
東京大学、国立遺伝学研究所、岡山大学の共同研究によって、アカエイが淡水環境に適応するための高度な腎機能のメカニズムが解明されました。この研究は、アカエイが海水から淡水へ移行する際に、尿量を約90倍も増加させることを明らかにし、脊椎動物の中でもその排泄能力の高さを示しています。
研究チームは、海水と淡水の両方に適応できるアカエイ(Hemitrygon akajei)に注目しました。アカエイは、海水の浸透圧に対して非常に高い体液浸透圧(約600 mOsm/kg)を維持しながら、淡水環境においても生存が可能です。この能力を背景にして、淡水中では過剰な水分を効率的に排出する必要がありますが、これまでその排出メカニズムについてはあまり知られていませんでした。
研究では、独自に開発した非侵襲的な採尿装置を用いることで、アカエイからの採尿と尿量測定が実施されました。この方法では、アカエイを無麻酔で連続的に観察し、尿の量を正確に測定することが可能です。その結果、アカエイは約56 mOsm/kgの低塩分水に移行した際に、尿量が87倍に増加し、単位時間あたりの尿量は6.4 mL/kg/hに達することが確認されました。この数値は他の脊椎動物と比べても非常に高いもので、アカエイの腎臓が驚異的な排水能力を持つことを示しています。
さらに、低塩分水の環境に慣れたアカエイを再び海水に戻すと、尿量は元の水準に戻ることが分かりました。これは、アカエイの腎臓が環境に応じて高度な可塑性を持っていることを示す重要な発見です。
この研究は、魚類の環境への適応や腎機能の多様性についての理解を深めるだけでなく、今後の腎臓疾患に関する研究にも貢献が期待されています。
論文情報
- - 雑誌名: iScience
- - 題名: Extensive urine production in euryhaline red stingray for adaptation to hypoosmotic environments
- - 著者名: Naotaka Aburatani, Wataru Takagi, Marty Kwok-Shing Wong, Nobuhiro Ogawa, Shigehiro Kuraku, Mana Sato, Kazuhiro Saito, Waichiro Godo, Tatsuya Sakamoto, Susumu Hyodo
- - DOI: 10.1016/j.isci.2025.113274
このように、アカエイの研究は海洋生物の適応能力の一端を示すものであり、さらなる研究の進展が期待されます。