命を守るための避難訓練の質を考える
2011年3月11日、日本を襲った東日本大震災は多くの命を奪い、私たちに防災の在り方を問う契機を与えました。特に、気仙沼市の大川小学校で起きた悲劇は、避難訓練の質が大きな課題であることを示しています。地震発生からわずか51分後、津波が学校を襲い、74名の児童と10名の教職員が命を落としました。
この事件は、避難の「質」がいかに重要かを教えてくれています。避難の遅れが多くの犠牲者を生んだ一因とされる中で、我々は避難訓練を見直さなければなりません。
避難の質を問う時
避難訓練は通常、回数や速さに偏重され、そのため具体的な被害シナリオに基づいた実践的な訓練が不足しています。NPO法人減災教育普及協会によると、日本で実施される避難訓練の約80%が、具体的な災害を想定しないまま行われているとの調査結果があります。これでは、実際の災害時に的確な判断ができない危険があります。
私たちは、避難の「量」ではなく「質」を高めるための新しい概念「EQC(Evacuation Quality Concept)」を導入する必要があります。この考え方に基づき、避難訓練そのものを進化させることが求められています。具体的には、以下の2つのアプローチがあります。
QoE(Quality of Evacuation)
従来の「指示型」から「思考型」に移行し、実際の災害時に即座に的確な行動ができるような訓練を設ける必要があります。
QoP(Quality of Preparedness)
事前にリスク評価を徹底し、具体的な対策を通じて被害の最小化を図ります。危険を想定し、それに基づく対策を講じることが不可欠です。
高まる危険意識
近年、地震による天井崩落やガラスの飛散などの危険が多く報告されています。避難訓練では、これらの危険を見据えた質の高い訓練が必要です。現在、多くの訓練で用いられている「ダンゴムシのポーズ」だけでは、実際の危険を想像することが難しく、効果的ではありません。
訓練を通じて子どもたちが危険をどのように認識し、的確に行動できるかを養う場を提供することが私たちの使命です。
知識と判断力を育もう
大川小学校の教訓を前に、私たちには正しい知識と判断力を涵養する訓練が必要です。具体的なシナリオを基にした抜き打ちの避難訓練を行うことも一つの方法です。例えば、山梨県内の小学校で行われた避難訓練では、ほとんどの児童が緊急地震速報の音を聞いて迅速に行動しました。これは、事前に防災教育をしっかりと受けていたからこそ可能だったのです。
今こそ行動の時
東日本大震災から14年が経過しました。私たちが避難訓練の「速さ」ではなく「質」を見直すべき時が来ています。正しい知識を持った上で、実践的な訓練を受けることで、未来の命を守ることが可能になるのです。
減災教育普及協会の取り組み
NPO法人減災教育普及協会は、思考型の避難訓練や新製品「YURETA」などを通じて防災意識の向上を目指しています。これからも、教育によってより安全な社会を築くための挑戦を続けていきます。私たちは、一人でも多くの命を守るため、意義ある防災教育を推進していくことを誓います。