感覚過敏を理解するための新たな映像プロジェクトが始動

東京藝術大学の「Diversity on the Arts Project（DOOR）」と公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団が共同で、感覚過敏を抱える発達障害者のための疑似体験動画「ハルの世界〜感覚過敏のぼくが電車に乗るまで〜」を発表しました。このプロジェクトは、発達障害者が日常的に直面する交通機関利用時の困難を視覚化することを目的としています。

プロジェクトの背景・目的

感覚過敏は、音や光、人混みオ周囲の視線に過敏に反応する特性を持つ人々が多く、その困難は周囲からは理解されにくいのが現状です。2022年の文部科学省の調査によると、発達障害の支援を必要とする生徒の割合は年々増加しており、特に感覚過敏についての理解を深めることが急務です。

プロジェクトは、感覚過敏関連の困難を疑似体験できる場を提供し、交通機関関係者や一般の人々に具体的な「合理的配慮シーン」を提示することで、理解の促進を目指しています。映像を通じて、どのような環境や配慮が必要かを分かりやすく示し、共生社会の実現が目指されています。

映像制作の意義

この動画は東京藝術大学の授業「ドキュメンタリー映像演習」の一環として制作され、学生たちが企画から撮影、編集に至るまでを手がけました。映像は実際の交通機関を舞台に、改札からホームへ移動する際のストーリーを描き、リアルな体験を通じて視聴者に深い理解を促す内容となっています。

映像制作のプロセスには、企画・監修、映像制作を大学が担当し、交通エコロジー・モビリティ財団はその支援を行いました。関与したのは学生だけでなく、社会人受講生たちによって多様な視点が取り入れられ、感覚過敏を抱える人たちの生活様式を理解しやすくするために努めています。

共生社会に向けた取り組み

このプロジェクトは、発達障害者の困難を社会に伝える「キュレーター」としての役割を果たす橋口亜希子個人事務所が主導しています。「あきらめを希望に変える」という理念を抱え、社会モデルに基づいた解決策の提示を行っています。これは、感覚に特異性を持つ子どもたちにとって重要な支援を促すものであり、社会的な理解を深めることに貢献するものです。

特に、音や光、人混みの中で安心できる場を提供する「カームダウン・クールダウン」や、感覚過敏の人たちが安全に息抜きできる「センサリールーム」の設置が広がることが期待されています。これらの環境は、発達障害に対する偏見を減らし、社会全体で支える姿勢を築くうえで不可欠です。