微生物の長期生存技術が環境保全に寄与
研究の概要
近年、環境保全に向けた取り組みが進む中、明治大学農学部と日本電信電話株式会社(NTT)の共同研究グループが土壌中の微生物の長期生存をコントロールする基盤技術の確立に成功しました。この技術は、環境への負荷を低減し、特に温室効果ガスの排出削減に寄与することが期待されています。
科学的背景
気候変動の影響がますます顕著になる中、温室効果ガスの排出抑制は急務です。実際、土壌からの二酸化炭素(CO2)の排出は、人間活動による排出の約12倍とされています。また、亜酸化窒素(N2O)の排出も問題視されており、その多くが化学肥料の過剰施用に起因するとされています。従って、土壌中での微生物の活動を適切に管理する新たな技術が求められる状況にあります。
研究のアプローチ
本研究では、モデル微生物として大腸菌を用い、実験を行いました。土壌中の微生物の生存率を評価するため、大腸菌を含む土壌サンプルを恒温恒湿器で管理し、生存細胞の数を測定しました。従来の手法では生死を区別できませんが、本研究では寒天プレート上でコロニーを数えることで、実際に生存している細胞のみを評価しました。
実験の成果
その結果、0日目に対して3日目で7.4%、7日目で4.3%、21日目で1.1%、42日目で0.27%の生存率が確認されました。このデータに基づき、土壌中の微生物の長期的な生存性に関わる遺伝子を特定するため、大腸菌に存在する全約300個の転写因子に着目。この取り組みにより、294種類の転写因子を持つ株を解析した結果、生存性が向上した株を4、逆に低下した株を10特定しました。
技術の応用
特定した遺伝子は、温室効果ガスの排出削減や化学肥料の使用量低減に向けた新たな基盤技術として期待されます。これにより、特定の微生物種の生存性をピンポイントで操作することが可能になり、土壌中での環境保全に貢献する可能性があります。例えば、N2Oの排出量を減少させることや、環境への窒素流出量を減少させる手段としての実用化が見込まれています。
今後の展望
本技術は、土壌中の微生物の生存性を個別に調整することで、より効率的な環境保全策を実現することが期待されています。さらなる研究を通じて、微生物の機能を利用した持続可能な農業や環境管理に寄与することが目標です。
詳細な成果は2025年2月4日に英科学誌「Scientific Reports」で発表される予定です。この研究により、微生物の生存性をよりよく理解し、持続可能な未来に向けた道筋を作ることが期待されています。