グリーンスチール市場形成の課題:マスバランス方式活用の注意点
近年、鉄鋼業界では脱炭素化に向けた取り組みが加速しています。その中で注目されているのが、「グリーンスチール」と呼ばれる低炭素鋼です。しかし、現段階では低炭素鋼の生産は進んでおらず、その代替策として「マスバランス方式」が活用されています。この方式は、社内の削減対策の成果を証書として付与することで、低炭素製品とみなすものです。
公益財団法人自然エネルギー財団は、このマスバランス方式を用いた「グリーンスチール」市場形成における課題と条件について、詳細なレポートを公表しました。本レポートは、マスバランス方式が抱える潜在的な問題点とその克服に向けた提言を詳しく分析しています。
マスバランス方式:グリーン市場形成の鍵?
鉄鋼会社や政府は、マスバランス方式を活用した「グリーンスチール」商品を市場の活性化に繋げると期待しています。しかし、実際には多くの課題が存在します。
マスバランス方式の課題
削減プロジェクトの適正さ: どのプロジェクトを選択し、どのように削減量を算定するかといった、プロジェクト選定の透明性と正確性が重要です。
チェーンオブカストディ (CoC): 生産から消費まで、低炭素鋼が確実に追跡できるCoCの構築が必須です。
EPDとの整合性: 環境負荷に関する情報開示 (EPD) との整合性確保が求められます。
リアルな製品との混同: マスバランス商品と、実際に低炭素で製造された製品との混同を防ぐための表示方法が必要です。
マスバランス方式の有効活用に向けた条件
レポートでは、これらの課題を克服し、マスバランス方式を有効活用するための具体的な条件が示されています。
1.
会社全体と生産拠点 (製鉄所) ごとの具体的な脱炭素計画の提示: 具体的な目標設定と達成に向けた取り組みが求められます。
2.
削減プロジェクトの厳格化、明確化、透明化: プロジェクト選定プロセスや算定方法の透明性を高め、信頼性を確保する必要があります。
3.
EPDとの整合性の確保: マスバランス商品に関しても、EPDの基準に則った情報開示を行う必要があります。
4.
リサイクル効果の帰属: リサイクルによって得られる環境負荷低減効果を、適切に評価し、製品に反映させる必要があります。
5.
リアルな製品との混同を避ける表示: マスバランス商品と、実際に低炭素で製造された製品を明確に区別できる表示方法が必要です。
グリーンスチール市場の未来
世界的に、鉄鋼業界における脱炭素化技術は着実に進展しています。将来的には、マスバランス方式に頼らず、実際に低炭素で製造された「リアルなグリーンスチール」が主流となることが期待されます。
しかし、現段階ではマスバランス方式は重要な役割を担っています。本レポートは、マスバランス方式の課題と条件を明確にすることで、より健全なグリーンスチール市場の形成に貢献すると考えられます。