水難事故を防ぐための水泳教育!
2025年6月24日、大阪府豊能郡能勢町にある「能勢ささゆり学園」で、約20名の小中学校教員を対象とした水泳指導研修が開催されました。この研修の講師は1984年ロサンゼルスオリンピックに水球日本代表として出場した若吉浩二教授でした。現在、彼は水泳教育の実践的な研究に取り組んでいます。
研修の焦点
研修では、若吉教授が開発した水泳補助具『フラットヘルパー』を使い、段階的な指導法を学びました。特に、泳ぎが得意でない子どもたちが「浮く感覚」を無理なく身に付けられるようなプログラムが用意されています。近年、学校水泳の授業が減少し、泳力格差が広がっています。そのため、若吉教授は「水難事故を防ぐためにも、全ての子どもが「浮いて待つ」技術を習得することが大切だ」と強調しました。
水泳教育を取り巻く厳しい環境
学校水泳の環境は、年々厳しくなっています。猛暑による熱中症リスクが高まり、ある一定の温度を超えると水泳授業が中止されることも多いです。そのため、年間で水泳の授業を受ける時間は10時間程度に制限されている学校が増えてきました。一方では、民間のスイミングスクールに通う児童とそうでない児童との間に泳力の差が出るという問題も指摘されています。限られた時間内で、泳ぎが苦手な子どもたちにどのように教えるかが大きな課題となっています。
新しい補助具『フラットヘルパー』の活用
『フラットヘルパー』は、メッシュ素材の補助パンツにビート板素材の浮力体を装着するシンプルなもので、500mlのペットボトルを代用することも可能です。この補助具は特に下半身が沈みやすい子どもたちに有効で、水面での水平姿勢を保つ手助けをします。研修会で教員たちはこの補助具を着用し、水中での感覚を体験しました。これにより、「浮く感覚」が水への恐怖心を減少させることを実感したのです。
理論と実技の統合
研修では、海水と真水の浮力の違いを学ぶ環境教育や、水難事故時の基本的な行動を学ぶ安全水泳、さらには泳法の習得までが盛り込まれたカリキュラムが用意されていました。これは理論と実技が連動した内容であり、教員がその知識を活用しやすくなっています。
楽しく「浮く」ことから始める
学習指導要領では、低学年で「水慣れ」を重視し、中学年からは「浮く」「沈む」「潜る」といった基本的なスキルの習得が求められますが、泳ぎが得意でない子どもにとってはこのステップは難しいこともあります。若吉教授はこの問題に対処すべく、段階的かつ優しい指導法を設計しました。最初に「水慣れ」から始まり、「浮き身」「呼吸法」「姿勢づくり」を経て、最終的に「大の字浮き」「伏し浮き」「背浮き」という技術を習得していきます。
「能勢モデル」の全国展開
若吉教授は2019年から能勢町教育委員会と連携し、地域の子どもたちの体力向上を目指した活動を続けています。今回の研修もその一環であり、教員たちが実践した効果をアンケートや現場観察を通じて評価しています。「能勢のような山間地域でも取り組めたこのモデルは,他の地域にも展開可能だ」と若吉教授は語ります。「能勢モデル」としての全国的な波及が期待されます。
教員の前向きな反応
研修に参加した教員からは、「浮きながら安心して呼吸の指導ができそう」「すぐに授業に取り入れたい」という意見が多く寄せられました。水に浮く身体の仕組みを理解するための三つの視点も紹介されました。それは、重力と浮力の関係、重心と浮心の関係、水の抵抗と慣性です。これらの基礎理論を体験を通じて学び、指導に役立てることが期待されています。
子どもたちの安全な未来へ
水泳教室に通えなくても、学校のプールで「浮く」ことから始めることができるという実践は、子どもたちの水との向き合い方を見直す新しい可能性を示しています。若吉教授のアプローチは、泳げるかどうかではなく、水に親しみ、自らを守る力を育む教育モデルとしての展望を示唆します。今後の展開に期待が寄せられています。