画期的な抗菌塗膜評価法の開発
東京大学大学院系研究科の中村乃理子助教や、太田誠一准教授を中心とする研究チームは、日本ペイント株式会社の宮前治広研究員と共同で、塗膜の抗菌効果をリアルタイムで視覚的に評価する新しい手法を開発しました。この評価系は、従来の検査方法では実現できなかった、塗膜表面での細菌の空間分布を連続的に把握することを可能にし、感染症予防に貢献する成果が期待されています。
研究の背景
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)をはじめとする様々な感染症の流行は、私たちの日常生活に多大な影響を与えています。そのため、特に医療機関や公共交通機関など、人々が頻繁に触れる場所での抗菌、抗ウイルス性の塗膜が求められています。これまでこのような塗膜の性能評価には国際標準化機構(ISO)による基準が用いられていましたが、実際には空間的な細菌の分布やリアルタイムでの情報取得が困難でした。
研究内容の詳細
本研究チームは、緑色蛍光タンパク質を発現する大腸菌を用いて、特殊な蛍光観察装置によって塗膜上での細菌の増殖を可視化することに成功しました。この装置は、LED光源、光学フィルター、デジタルカメラを組み合わせ、数センチメートル四方の不透明な塗膜上でも細菌の空間分布をリアルタイムで観察することが可能です。従来の方法では数マイクロメートル四方の領域のみへの限界がありましたが、今や広範囲にわたる細菌の挙動を観察できるようになりました。
この新手法の導入により、撮影した蛍光画像は、平均輝度や輝度の分布などの定量的な指標に変換し、塗膜の大きさや培養液の量が評価結果に与える影響を検討することができます。研究チームは、この結果をもとに抗菌塗膜の効果を評価し、感染症対策としての実用性を証明しました。
今後の展望
この手法を利用することで、さらに多様な抗菌塗膜の性能評価が進み、リアルタイムで効果を確認できるという利点があります。今後は、より広範な細菌に対応した評価が可能となり、病原性細菌を用いた実用的な評価も視野に入れています。
研究の成果は、2025年1月31日(英国時間)に科学誌『Scientific Reports』に掲載される予定です。この評価系の普及が進むことで、抗菌塗膜の市販や普及が加速し、感染症予防への貢献が期待されます。
研究資金と業務連携
本研究は東京大学と日本ペイントホールディングス株式会社との間での産学協創協定に基づく活動の一環として推進されています。社会連携講座「革新的コーティング技術の創生」では、企業との共同研究が行われており、2020年から2025年までの期間に納められる成果に注目が集まっています。
問い合わせ先
研究に関するお問い合わせは、東京大学大学院工学系研究科の太田准教授まで。