女性科学者の生涯を描いた感動作
伊与原新の直木賞受賞第一作『翠雨の人』が、2025年7月30日に新潮社から刊行されます。本書は、実在した女性科学者・猿橋勝子の波乱万丈な人生を描いた感動的な長篇小説です。著者は、彼女の生涯だけは自分の手で書きたいと強く思い、10年の構想を経てこの作品に挑みました。
猿橋勝子とは?
猿橋勝子は1920年に東京で生まれました。彼女は、東京都立三田高等学校を経て、日本初の女性のための理系専門学校である帝国女子理学専門学校を卒業した第一期生です。その後、中央気象台研究部で研究をし、人生の師である三宅泰雄から学びました。1954年には、アメリカのビキニ水爆実験によって降り注ぐ「死の灰」による放射能汚染の実態を解明し、これは後の核実験抑止にも寄与しました。また、1980年には「女性科学者に明るい未来をの会」を設立し、実績のある女性科学者を表彰する「猿橋賞」を創設しました。
本作の内容
この文学作品は、少女時代に「雨はなぜ降るのだろう?」という素朴な疑問を抱いた猿橋が、理系の道へと進む様子を描きます。戦争と科学の関係を追求し続け、戦後にはアメリカの核実験による放射能汚染の測定に携わり、放射能の深刻さを証明しました。これにより、彼女の研究成果は国際的に影響を与え、核実験の抑止に寄与したとも言えます。
伊与原さんは彼女を「初めてそう思った科学者」と語り、この本を通じて彼女の生涯にわたる科学への情熱を読み手に届けたいと考えています。
素朴な疑問から見えてきた真実
「なぜ雨は降るのだろう?」猿橋勝子の人生は、少女の時に抱いたこの疑問から始まりました。彼女は、科学者としての道を選んだ女性たちにとって、希望の象徴でもあります。本書では、勝子の生涯を通じて彼女の信念と情熱が描かれており、科学がもたらす真実を追求する姿勢が強く感じられます。
伊与原新について
伊与原新は1972年に大阪で誕生し、神戸大学で理学を学びました。その後、東京大学大学院に進みました。彼の作品には『お台場アイランドベイビー』や『月まで三キロ』などがあり、いずれも多くの賞を受賞しています。『翠雨の人』は、彼のこれまでの集大成とも言える作品で、女性科学者の人生を美しく描き出した意欲作として期待されています。
書籍情報
- - 書名:翠雨の人
- - 著者:伊与原新
- - 発売日:2025年7月30日
- - 価格:1,980円(税込)
- - ISBN:978-4-10-336215-9
- - 詳しくはこちら:新潮社公式サイト
この作品は、猿橋勝子という貴重な存在を知る上でも、また、女性が理系分野で果たしてきた役割を再認識する上でも、重要な一冊です。ぜひ手に取ってみてください。