日経225企業の人的資本開示評価
最近、人的資本理論の実証化研究会は、日経225に構成される170社の3月期決算企業に関する人的資本開示の評価レポートを発表しました。レポートは、経営戦略と人材戦略の双方を絡めた人的資本の評価方法に基づいており、企業が「何のために人材に投資するのか」と「必要な能力の到達水準」を具体的に示すことの重要性を強調しています。
人的資本の見える化
この研究会の共同座長である小野浩教授(一橋ビジネススクール)と福原正大教授(慶應義塾大学)は、ノーベル経済学賞を受賞した故ゲーリー・ベッカー教授の理論を基に、人的資本を「能力」と再定義しています。そして、企業が将来的に目指す数値目標とそれを実現するための能力要件を結びつけて評価しています。
調査結果では、経営目標と人材戦略の結びつきは、64.1%の109社が示す一方で、必要な能力の到達水準に関する目標を設定している企業は4.1%のわずか7社に留まっていると明らかになりました。これは、企業が将来に向けての長期的な視野を欠いた形での開示が多いことを示しています。
評価基準と結果
本レポートは、人的資本投資の評価指標(経営成果との関連性)と人的資本の具体的な目標(必要な能力の明示)の2つの軸で評価を行っています。評価の点数は1から5まであり、前年度との比較も行われています。
結果としては、2025年度において、経営目標に対して行われた人的資本投資の評価が高く評価された企業は54社に達しましたが、必要な能力の具体化はまだ不足があります。特に、到達レベルまで具体的に目標を示す企業は極めて限られています。
評価点数の推移
前年に比べて能力の具体化に関する平均点は2.18点から2.35点に上昇しましたが、目標を明示する企業はまだ少数です。今後、企業がどのように経営戦略に基づいて人的資本を開示していくかが注目されます。
投資家への影響
さらに、人的資本開示の評価の変化が株式リターンに与える影響についても調査が行われました。投資判断において、人的資本の評価を取り入れることで、年率超過収益率がプラス1.59%から1.04%に達することが示されました。これは、人的資本開示が企業価値に直接的な影響を与える可能性を示唆しています。
課題と今後の展望
人的資本開示の今後の課題として挙げられるのが、企業が競争力を強化するために投資する必要があるスキルと、その具体的な達成目標の明示です。企業経営者や投資家は、このレポートを手がかりにより具体的な対話を行うことが期待されます。
小野教授は「能力への投資を具体的に語る開示が広がることを期待しています」と述べ、この重要なテーマに対する関心が高まっていることを示しました。また、福原教授も「企業には開示の見直す手がかりとして、投資家には対話の共通の言語として、本レポートを活用してほしい」とのコメントを寄せています。
今後、人的資本を経済戦略の重要な一環として捉え、どのように効率的な投入が実現されるのかが問われている中、この研究会の活動が期待されます。