日本がん患者の支援が新たな段階に入ろうとしています。慶應義塾大学薬学部、株式会社リサ・サーナ、そして一般社団法人ピアリングの三者が連携し、がん患者のピア・サポートコミュニティ「Peer Ringピアリング」の投稿を基にした共同研究を開始しました。この取り組みは、患者の経験を可視化し、より良い医療サービスを提供することを目的としています。
研究の背景
近年、がん患者は多様な情報源から貴重な体験を得ることができる環境にあります。ブログやSNSの隆盛により、患者同士の経験が共有される機会が増加しているものの、情報の量は膨大であり、必要な情報を探し出すのは一筋縄ではいきません。そんな中で、リサ・サーナが2017年に立ち上げた「Peer Ringピアリング」では、女性がん患者のためのSNSコミュニティを運営し、約132万件の投稿が2025年までに蓄積されることとなりました。この十分なデータを活用することで、患者の症状、心理的変化、そして関心事をより深く理解できるようになります。
研究の概要
この研究では、リサ・サーナの「Peer Ringピアリング」に投稿されるダイアリーとレスポンスを解析対象とします。解析に使用される技術には、自然言語処理や大規模言語モデルが含まれ、AIを駆使して患者の投稿から症状や感情を自動的に抽出していきます。
具体的には、以下のような分析が行われます:
- - 患者が記録した症状や有害事象の抽出
- - 感情や悩みを分類し、分析
- - 診断や抗がん剤治療など、重要な治療イベントの抽出
- - 症状の変遷を可視化する症状トラジェクトリの導出
これにより、患者は自身の変化をより容易に理解し、医療者も患者視点に基づいた情報提供が可能になることが期待されています。
期待される成果
この共同研究を通じて、がん患者は「同じ経験を持つ人の声」を簡単に探し出せる仕組みが構築されます。また、医療者や製薬企業は、患者の悩みや副作用の傾向を把握し、質の高い医療や支援体制の構築を行うための基盤が整備されるでしょう。さらに、患者のピア・サポートの有効性を科学的に示す新しい研究モデルが提案されることが期待されています。
研究に対する倫理的配慮
この研究は、慶應義塾大学薬学部の倫理委員会に承認を受けており、適切な倫理的配慮のもとで実施されるため、信頼性の高いデータを提供することが可能です。
リサ・サーナの役割
リサ・サーナはがん患者向けのコミュニティ型SNS「Peer Ringピアリング」を通じて集めた患者の声を研究の基盤として提供し、科学的かつ信頼性のあるデータ分析を支援します。これにより、患者体験を社会に還元できる新たな知見を生成し、ピアサポート活動を行う一般社団法人ピアリングと協力しながら、がん患者支援活動の新たな可能性を切り拓くことに力を入れています。
研究者の声
慶應義塾大学薬学部の堀里子教授は、「Peer Ringピアリングには医療現場には届きにくい、日常生活における貴重な体験や想いが集まっています。これらの声を可視化し、患者・医療者にとって価値のある知見を生み出すことを目指しています」と語ります。また、リサ・サーナの上田暢子代表取締役は「私たちの活動は、がんに向き合う人々の思いや経験を社会に届けることがミッションです。集まる体験を科学的な根拠に変え、両者にとって有益な情報基盤を作っていきます」と述べています。
おわりに
この研究は、がん患者の経験を科学的に整理し、医療と社会に対して新たなアプローチを提供するものです。患者と医療者の理解を深めることができるこの研究が、今後のがん医療にどのように寄与するのか、目が離せません。