心の拠り所となる絵本『さよならなんかしない』
親を自殺で失った子どもたちは、どんな思いを抱え、どう支えられるべきのでしょう。これまで光が当たってこなかったこの痛ましいテーマに取り組む絵本『さよならなんかしない』が、ついに刊行されます。本書は、自死遺児支援プロジェクトのもと、佐藤まどかさんと森山花鈴さんが文字を、そして高橋和枝さんが絵を担当し、自死遺族の実情に基づいて企画されました。
物語の背景と内容
物語は、小学5年生のユウの視点から語られます。ある日、学校でお母さんからの衝撃的な連絡が入ります。それは、お父さんが亡くなったということ。ユウは、周囲の人々がどう思っているのか、どのように振る舞っていいのかわからず、混乱しながら日々を過ごします。ついに、彼は相談室に足を運ぶことを決意します。
本書は、ユウが心の奥で抱えている悲しみや痛みが少しずつ解放されていく様子を描写しています。「泣くのを我慢していたら、胸が痛くなるって知らなかった」という言葉が象徴するように、彼の心の内面に寄り添う物語が展開されます。これは自死後のグリーフケアの一環として、多くの人にとって意味深い内容となっています。
自死遺児への理解と支援
日本における自死遺族や自死遺児の数は減少するどころか、年々増加傾向にあります。最新の調査では、自死遺児は約9万人に達することが推計されています。教育現場では自殺予防に関する取り組みが進められているものの、親を自殺で失いたくないと願う子どもたちへの支援が十分ではありませんでした。本書は、こうした子どもたちが安心して読める初めての絵本です。
メッセージとしての絵本
『さよならなんかしない』は、子どもたちの心に寄り添い、「自分を決して責めないでほしい」というシンプルで力強いメッセージを届けています。また、大人には事実をきちんと伝える重要性を対話を通じて示し、自然にサポートを提供できるよう促しています。この絵本が、悲しみや喪失感について考える契機になることを目指しています。
制作チームの信念
この絵本の制作には、心の重みをしっかりと理解した専門家たちが関与しています。佐藤まどかさん自身が幼少期に家族を自死で喪失した経験を持つことから、切なる思いが込められています。森山花鈴さんは、自殺対策の研究者として自死遺族支援に尽力してきました。彼らの知識と情熱が、この作品の基盤となっています。
結論:未来へ向けて
本書は11月に刊行予定で、子どもの権利を考える「子どもの権利月間」にふさわしいタイミングです。この絵本を介して、子どもたちの権利や健全な心のケアについての意識を広げるきっかけになることを願っています。自死というテーマに向き合うこの試みが、多くの人々の心に響くことを期待します。
詳しい書誌情報は:
書名:さよならなんかしない
著者:佐藤まどか・森山花鈴 文/高橋和枝 絵
企画:自死遺児支援プロジェクト
定価:1,870円 (本体1,700円+税10%)
発売日:2025年11月12日
判型:B5変型判/サイズ:20.6×18.8cm
頁数:65頁
ISBN:978-4-494-02342-4
NDC:913
詳細リンク:
童心社HP