飲むインスリンが切り開く新たな治療法
熊本大学大学院生命科学研究部の伊藤慎悟准教授を中心とした研究グループが、注射を必要としない「経口インスリン」の開発に成功しました。この革新的な技術は、糖尿病治療における新たな選択肢を提供することが期待されています。
研究の背景
現在、糖尿病患者の多くはインスリン注射に依存しています。これは痛みや手間がかかるため、多くの患者にとって負担となります。注射を避けるために、経口版のインスリンが求められていましたが、今までの研究ではその実現が困難でした。
DNPペプチドによる新技術
本研究の重要な部分は、「小腸透過性環状ペプチド」と呼ばれるDNPペプチドの活用です。このペプチドを介して、インスリンの経口摂取を可能にすることができました。研究チームは、このDNPペプチドをインスリンに結合させるために、二つの異なる手法を開発しました。ひとつは、混合による相互作用型、もう一つはクリックケミストリーを用いた共有結合型です。
相互作用型と共有結合型
最初のアプローチでは、DNPペプチドと注射製剤で使用される亜鉛インスリン六量体を混合し、インスリンの経口吸収を飛躍的に向上させました。糖尿病モデルマウスへの単回投与で、血糖値は正常にまで低下し、さらに1日1回の投与を3日間続けた結果、安定した血糖降下効果が確認されました。
次に、DNPペプチドを用いたクリックケミストリーによって直接インスリンと結合させた結果、血糖管理は相互作用型と同等の効果を示しました。この一連の成果は、経口インスリンの実現に向けた飛躍的な第一歩です。
実用化への期待
研究により確立されたこの新しい投与法は、糖尿病の治療方法を根本的に変える可能性があります。この研究は、2023年11月24日に国際学術誌『Molecular Pharmaceutics』にて発表される予定で、世界中の医療関係者の注目を集めています。
研究の資金提供
本研究は日本医療研究開発機構や科学研究費助成事業など多くの支援を受けて行われました。これにより、基礎的な研究を発展させ、技術の実用化へとつなげることができました。
まとめ
経口インスリンは、痛みを伴う注射から解放されるだけでなく、患者がより快適に糖尿病治療に取り組む助けとなるでしょう。今後の研究がどのように進展していくのか、引き続き注目が必要です。