酉島伝法の新作『無常商店街』が描く幻想的な異界の物語
著名なSF作家・酉島伝法(とりしま・でんぽう)さんの最新刊『無常商店街』が、東京創元社から2025年11月28日に刊行されます。酉島さんは、短編作品『皆勤の徒』で第2回創元SF短編賞を受賞し、その後も同題の作品集が日本SF大賞を受賞、さらに初長編小説『宿借りの星』でも日本SF大賞を受賞するなど、SF界の斬新な才能として注目を浴び続けています。
今回の『無常商店街』は、現代の日本を舞台にした魅力的な幻想譚です。物語は、翻訳家の宮原が、姉から頼まれた猫の世話をするために仏眼荘というアパートに滞在するところから始まります。姉から「商店街には近づかないように」と忠告されているにもかかわらず、主人公は書店を探して町を歩くうちに、目の前の景色が変わる不思議な現象に遭遇し、いつしか異界の町に迷い込んでしまいます。
物語は三つのエピソードから成り、それぞれが姉からの頼みを受けて一見普通の日常に見える場所を訪れ、そこで異界の存在に気づかされるという構成になっています。商店街、スーパー、神社など、日常的な場所だと思っていたのに、実は異次元の世界が重なっているという設定は、これまでの酉島文学に新たな風を吹き込むものでしょう。
この作品の魅力の一つは、読者にとっての親しみやすさです。「往きて踊りし」物語として、酉島文学の中で最も読みやすい作品として期待されています。さまざまなキャラクターとの出会いや、冒険を通じて主人公が成長し、困難を乗り越える姿が描かれていることでしょう。
今回の装画は、イラストレーターのカシワイさんが手がけています。カバーの面と裏がつながっており、作中に出てくる三つの舞台全体を見渡せる美しいデザインとなっています。また、収録作のそれぞれに扉絵も描かれており、巻末には酉島さんとカシワイさんの特別対談も収録されています。この対談では、創作の裏話や、作品に対する思いを知ることができ、多くのファンにとっては興味深い内容となるでしょう。
物語の中で、宮原は様々な困難に直面します。姉が異界の町の御神体にされてしまうという衝撃的な事実を知らされ、事態を打開するために「掌紋祭」の「踊り合い」に参加しなければならなくなります。異界への扉を開くこの祭りに向けて、宮原は町のダンス教室で必死になって特訓を重ねることになります。言葉とイメージの巧妙な使い手である酉島伝法さんが描くこの物語には、緊迫感と共に心温まる瞬間が散りばめられています。
このように、酉島伝法さんの新作『無常商店街』は、幻想的な異界の探求と人間の成長物語が見事に融合した作品となっています。ぜひ、多くの読者に手に取ってもらいたい一冊です。いち早くこの異世界の魅力に触れ、酉島文学の新たなページを開く準備を整えておきましょう。
書誌情報
- - 書名: 無常商店街
- - 著者: 酉島伝法
- - 判型: 四六判仮フランス装
- - ページ数: 244ページ
- - 発売日: 2025年11月28日
- - ISBN: 978-4-488-02108-5
- - 装画: カシワイ
- - 装幀: 小柳萌加(next door design)
著者プロフィール
酉島伝法(とりしま・でんぽう)は1970年に大阪府に生まれ、2011年には『皆勤の徒』で第2回創元SF短編賞を受賞しました。デビュー作は日本SF大賞を獲得し、国際的にも評価されています。その他の著書として、『奏で手のヌフレツン』などがあります。酉島さんの作品は、人間の内面や社会を鋭く描写しつつ、常に新しい視点を提供してくれます。