生物多様性評価手法6つ策定
2024-07-08 12:19:18

ネイチャーポジティブ実現に向けた生物多様性評価手法6つを策定~群馬県みなかみ町、日本自然保護協会、三菱地所が連携~

ネイチャーポジティブ実現に向けた生物多様性評価手法6つを策定



群馬県みなかみ町、公益財団法人日本自然保護協会、三菱地所株式会社は、2023年2月27日にネイチャーポジティブの実現を目指し、3者で連携協定を締結しました。

この連携の中で、3者は「生物多様性保全や自然の有する多面的機能の定量的評価への挑戦と活用」に取り組み、生物多様性を客観的かつ定量的に評価する6つの手法を策定しました。

ネイチャーポジティブの実現には、生物多様性の客観的な評価が不可欠です。国際自然保護連合(IUCN)が提唱する「ネイチャーポジティブ10の原則」や「IUCNネイチャーポジティブアプローチ」でも、生物多様性の評価が求められています。

今回発表された6つの評価手法は、IUCNのアプローチやTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)による企業・団体への提言などを参考に、世界的な動きと整合性を図りながら検討されました。

これらの手法は、ネイチャーポジティブ実現に向けた国際目標である昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)や各自治体の目標に対する生物多様性保全活動の貢献を客観的に評価することができます。また、TNFDで求められている企業による事業を通じた地域の自然への「依存度/影響」の評価や、「リスク/機会」「指標と目標」の検討及び開示にも活用できます。

6つの評価手法の詳細と、みなかみ町での評価結果



今回発表された評価手法は、主に生物多様性や生態系サービスの「現状」を評価する手法です。今後は、保全活動等による「生物多様性の回復傾向」を客観的に評価できる手法の検討も進めていく予定です。

1. 重要地域の評価

専門家等へのヒアリングや既往文献等の調査によって、地域における生物多様性保全上重要な場所を、生物多様性の希少性・危急性・相補性・連結性の観点から評価します。例えば、企業の事業地や生物多様性保全活動を行っている場所が、生物多様性にとって重要な場所かどうかを評価できます。重要地域の把握は、TNFDが推奨するLEAPアプローチでも最初に行うべきこととして求められています。

みなかみ町での評価結果: みなかみ町における生物多様性保全上重要な場所を67ヵ所特定しました。

2. 生物分布予測

地域に生息している可能性のある生物種(植物・鳥・昆虫)を、国の環境調査データなどを基にした全国規模の生物分布情報と地形・気象・土地利用等の情報を用いて、統計学的に予測して評価します。例えば、企業の事業地や活動地の自然の質を定量的に評価することができます。

みなかみ町での評価結果: 重要地域には、みなかみ町における主要な生物種の99.7%の種が分布している可能性があることを明らかにしました。

3. 重要地域のギャップ分析

生物多様性にとって重要な場所における開発等のリスクを、保全担保措置の有無等から評価します。例えば、30by30(GBFで定められた2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として保全する目標)への貢献を目指して企業が環境省の自然共生サイトの登録に取り組む際に、生物多様性の保全からみて効果的な場所の選定が可能になります。

みなかみ町での評価結果: みなかみ町の重要地域のうち、低標高域の里地では、保全担保措置がとられている面積比率が低く、また開発のリスクが高いなど、課題を特定しました。

4. 地下水涵養量、炭素吸収量

生態系からもたらされるサービスのうち、地下水涵養量と炭素吸収量を、土地利用や植生タイプ、気候条件等の情報から100mメッシュ単位で推定、評価します。地下水涵養量は降雨のうち土壌中に浸透して地下水となる1年間の水の量であり、炭素吸収量は地上の植生等によって1年間で固定される二酸化炭素重量です。例えば、企業の事業地や活動地がもつ地下水涵養量と炭素吸収量の現状を評価することができ、気候変動や防災減災等の文脈でもこれらの情報の活用が可能になります。

みなかみ町での評価結果: みなかみ町がもつ地下水涵養量と炭素吸収量を把握しました。

5. 生態系タイプ区分分析

地域の自然を、「湿地」や「二次林」など少数の生態系タイプに区分し、地域の生態系の多様性を評価します。この結果は、企業の事業地や活動地において、より効果的な生物多様性保全活動に役立てることができます。TNFDでも企業の事業活動による自然への影響を生態系タイプごとに評価することが求められています。

みなかみ町での評価結果: みなかみ町を生態系タイプごとに区分すると、「自然林」の面積比率が51.5%と、全国的に見てもまとまった規模の生態系として残されていることが明らかになりました。

6. IUCNの「NbS世界標準」への適合度

生物多様性保全活動が、気候変動や自然災害、人間の健康など、地域の社会課題の解決にも資するものになっているかどうかをIUCNの定める「NbS 世界標準」に沿って評価します。NbSはNature-based Solutions の略で「自然に根ざした解決策」と訳されます。世界では、生物多様性を保全していくと同時に、自然を基盤とした社会課題の解決を目指していくことがネイチャーポジティブの実現に向けて重視されています。この評価により、例えば企業の生物多様性保全活動をNbSの視点から改善していくことが可能となります。

みなかみ町での評価結果: 3者の連携協定に基づき取り組んでいる生物多様性保全活動の現時点での適合度は30/100点(部分的に適合)であり、改善すべき課題を把握しました。

今後の展望



これらの6つの評価手法は、みなかみ町での活動に限らず、日本全国の生物多様性保全活動で活用することができます。また、この取り組みは、日本の生物多様性の特性と科学性を担保するため、日本を代表する自然科学と社会科学の専門家とともに検討を進めてきたものです。

3者連携協定について



みなかみ町、日本自然保護協会、三菱地所の3者は、2023年2月27日に、ネイチャーポジティブの実現を目指して10年間の連携協定を締結しました。主な取り組みは以下の通りです。

1. 生物多様性が劣化した人工林を自然林へ転換する活動(約80ha)
2. 生物多様性豊かな里地里山の保全と再生活動
3. ニホンジカの低密度管理の実現
4. NbS(Nature-based Solutions)の実践
5. 生物多様性保全や自然の有する多面的機能の定量的評価への挑戦と活用

最後に



これらの取り組みは、企業や団体が生物多様性保全活動に取り組む際に、客観的な評価に基づいた意思決定を支援し、ネイチャーポジティブな社会の実現に貢献するものと期待されます。


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