ロス・トーマスの初期傑作『狂った宴』、待望の邦訳版出版
2024年7月29日、株式会社新潮社からアメリカの犯罪小説家ロス・トーマスの「狂った宴」が新潮文庫にて発表される。これまで邦訳が待たれていたこの作品は、1967年に書かれたもので、アフリカに存在する小国を舞台とした政治的な蟠踞を描いています。本作は、トーマスの独特な視点とストーリーテリングが融合した作品であり、長らく日本のミステリー読者からの注目を浴びていました。
独立の影で繰り広げられる選挙戦
物語は、シャルテルという辣腕の選挙コンサルタントと、広告代理店DDT広報部のアップショーが手を組み、アフリカの小国アルバーティアでの国家元首選挙に挑むところから始まります。アルバーティアは資源豊富ながらも、腐敗が根強く、選挙を成功させるためには、時に汚い手段も辞さないという状況に追い込まれます。彼らの展開する選挙キャンペーンは、単なる選挙戦を超え、驚くべき転がり方を見せ、やがて二人は信じられない混乱に見舞われるのです。
本作の中では、さまざまな政治的な騙し合いや陰謀が展開され、暴力や殺人事件が交錯します。まるでダイイング・メッセージの謎のような手掛かりが次々と現れることで、読者は物語に引き込まれるでしょう。そうした要素は、単なるエンターテインメントにとどまらず、当時の政治状況を反映する深みを与えています。
トーマスの背景とその魅力
ロス・トーマスは、オクラホマシティ出身の作家であり、ジャーナリストや脚本家としても知られる存在です。彼の作品は、サスペンスやスパイ小説の巨匠としての評価も高く、 「冷戦交換ゲーム」や「女刑事の死」といった名作を残しています。特に、「愚者の街」は2024年版の「ミステリーが読みたい!」で海外部門第1位に選ばれ、老舗の作家として再評価されています。このような経歴を持つトーマスの作品は、その時代背景や視点が独創的かつ斬新で、現代の読者にも新鮮な感覚をもたらしてくれます。
『狂った宴』のさらなる魅力
本作が特筆すべき点は、政治がらみの作品でありながら、淡々とした現実描写にとどまらないところです。トーマスのペンを通じて描かれる選挙戦がもたらす思いもよらない展開や、ダイイング・メッセージの意外性が、この小説の魅力を一層引き立てます。暴力的なシーンは物議をかもすかもしれませんが、それがまた物語を際立たせる要素ともなっているのです。
このように、トーマスの『狂った宴』は、犯罪小説の新しい形を示しているだけでなく、同時に人間社会の裏側や選挙の醜さを洗いざらい描いています。
【書籍データ】
- - 書名:狂った宴(新潮文庫刊)
- - 著者:ロス・トーマス/松本剛史訳
- - 発売日:2024年7月29日
- - 定価:1,100円(税込)
- - ISBN:978-4-10-240313-6
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