労務費の価格転嫁に関する実態調査
名古屋商工会議所が実施した第55回定期景況調査において、企業の労務費の価格転嫁の実態が調べられました。その結果、労務費の価格転嫁が原材料費やエネルギー価格に比べて劣っていることが明らかになりました。特に、企業規模が小さいほど、この転嫁が進まない傾向が強いことが指摘されています。
調査の背景
2023年10月、愛知県の最低賃金が63円引き上げられ、1,140円となりました。この賃上げの動きが企業経営に影響を及ぼしている中、労務費の適切な転嫁が求められています。しかし、2021年に公表された『労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針』から2年経過しても、労務費の価格転嫁は進んでおらず、企業にとって深刻な課題として残っています。
調査概要
この調査は、インターネットを通じて行われ、1,318社からの回答が得られました。その中で、労務費の価格転嫁が必要であるとした811社の回答を分析対象としました。
分析の結果、労務費は最も価格転嫁が難しいという事実が浮かび上がりました。特に小規模企業の約3分の1が「全く転嫁できていない」と回答しており、企業の規模による影響が強く表れています。
労務費転嫁の障壁
調査で最も多く挙げられた労務費転嫁の障害は「受注減少の恐れ」であり、交渉前の段階での課題も多いことがわかりました。実際、交渉前に直面している問題への理解が足りないことが、企業が労務費を価格に反映できない理由となっています。
特に調査結果によると、価格交渉に関する指針を完全に理解している企業は3割に過ぎず、残りの企業は内容を知らないか把握していない状況にあります。このことから、制度を理解している企業ほど労務費の転嫁が進んでいることが示されています。
問題の根本
さらに、労務費の適正分類ができずに交渉が進まない企業が多い中、発注者側から労務費についての協議を進められたケースは極めて少ないのが現実です。このため、受注者側が自ら交渉を行う必要が強いられています。
また、労務費を他のコストから分けて根拠資料を提示できている企業は、価格転嫁が進む傾向にあることが分かりました。こうした状況を踏まえて、交渉の前段階での準備がカギとなるでしょう。
今後の展望
受注者が適切に法を理解し、労務費の根拠を整え、交渉に臨むことが重要です。この調査からも、労務費の価格転嫁は中小企業の賃上げに直結する重要な課題であることが見えてきます。
「防衛的な賃上げ」にとどまらず、持続的な賃上げを目指すためには、企業が自らの価値を認識し、強みを考慮した価格交渉を行うことが求められます。しかし、単独で解決することは難しく、発注者側の行動変化も不可欠です。今後も行政機関との連携を強め、法的枠組みの改正などを通じて、労務費の価格転嫁が実現可能な環境を目指していきます。
重要なポイント
労務費の価格転嫁を加速させるための『中小受託取引適正化法』の施行が2026年1月に決定しています。これにより、受注者が適切な価格交渉を行える環境が整えられることが期待されています。今後、企業は改正内容を理解し、今後の交渉に取り入れていくことが求められます。