9月21日、江戸川区で開催された『黒い蜻蛉』トークイベント
2023年9月21日、東京都江戸川区にある書店「読書のすすめ」で、ジーン・パスリー著の『黒い蜻蛉――小説 小泉八雲――』に関するトークイベントが行われました。このイベントでは、パスリーさん自身の考えや創作の背景に迫りながら、翻訳を手掛けた小宮由さんや編集者の清水克衛さんが参加しました。
この書籍は、小泉八雲が没後120年を迎えるのに合わせて発刊されたもので、パスリーさんが2021年に発表した原作『Black Dragonfly』の邦訳版です。本書は、八雲の実際の人生に空想を織り交ぜることで、一人の人間としての彼への理解を深めることを目的にしています。
ジーン・パスリーさんの思い
アイルランド出身のジーン・パスリーさんは、八雲が自身の故郷アイルランドと深い関わりを持つ点に惹かれ、彼の物語を作り上げたと語ります。パスリーさんが初めて八雲の名を知ったのは1980年代で、日本に来た際に現地の人々から「それはラフカディオ・ハーンのことだね」と言われたことから始まりました。
「小泉八雲については、日本に住む間に読んだ『怪談』がきっかけでした。そしてアイルランドに帰国した際には、八雲の幼少期の家の近くに住むことになり、彼への興味はますます深まりました」とパスリーさんは振り返ります。
彼は本書を書くプロセスを「非常に楽しい体験」と表し、自身がアイルランドに居ながら日本を毎日訪れている感覚を堪能したと述べます。また、八雲の視点を通して日本の文化や人々を描くことにこだわり、読者にその体験を伝える工夫をしたとも語りました。
小宮由さんの翻訳への思い
翻訳者の小宮由さんは、普段は児童書の翻訳を手掛けていますが、この作品に取り組むことで八雲の波瀾万丈な人生に深い衝撃を受けたと述べました。特に、原作者への愛や理解を込めた翻訳を心がけ、「言葉の制限があまりないこの本の翻訳は、とても自由で面白かった」と語ります。八雲とパスリーの二人の“X”を掴む難しさについても触れました。
清水克衛さんの感想
『黒い蜻蛉』を編集した清水克衛さんは、読後に「日本の原風景を思い出した」と表現し、社会の変化に伴い日本人が見失いつつあるものへの懸念を示しました。特に、現在の政治家にこそこの本を読んでほしいと熱心に訴えます。
作品のタイトルについて
トーク中に「なぜ『黒い蜻蛉』というタイトルなのか?」という質問が飛び出すと、パスリーさんはトンボの生態と八雲の人生との関連を説明しました。トンボは暗い水中で成長し、その後空へ羽ばたくことから、多くの苦難を乗り越えた八雲の人生を象徴するものとしてタイトルが付けられたのです。
今後の展望とサイン会
イベントの終盤で「また日本に来てほしい」という希望の声に応え、パスリーさんは「映像制作関係者がいれば、ぜひ私に声を掛けてほしい」と積極的に映像化のプロジェクトを提案しました。サイン会では、参加者との交流が温かく、盛況のうちに終わりました。
書籍詳細
本書『黒い蜻蛉――小説 小泉八雲――』は、2024年8月30日に佼成出版社から出版され、344ページ、定価2,750円(税込)です。八雲の人生の真髄に迫るこの作品は、空想的な伝記小説としての魅力に満ちています。
是非、読んでみてください!