熊本史雄教授の受賞作が示す日本の外交思想
熊本史雄・駒澤大学教授の著書『外務官僚たちの大東亜共栄圏』(新潮選書)が、樫山純三賞、司馬遼太郎賞に続き大佛次郎論壇賞を受賞しました。この受賞は、近年の日本の海外政策や外交戦略を考える上での一つの指標とも言えるでしょう。
書籍の概要
本書は日露戦争以降の日本の外交をテーマにしており、特に「大東亜共栄圏」にまつわる外交官たちの思考過程を明らかにします。豊富な資料を基にした本書は、日本外交の「失敗の本質」を突き詰めるという使命感から執筆されました。
評価の声
朝日新聞が報じたように、選考委員からの評価も非常に高く、各教授は以下のような意見を述べています。
- - 杉田敦教授(法政大学)は「日本が今、直面している安全保障問題において、読まれるべき内容だ」と語ります。
- - 佐藤俊樹教授(東京大学)は「一つの視点を徹底的に描き切った」と評価。
- - 豊永郁子教授(早稲田大学)は「新資料の発見に基づく快著」と称賛。
- - 諸富徹教授(京都大学)は「魅力的な文体で読者を引き込む」とし、佐藤武嗣氏(朝日新聞論説主幹)は「戦略立案過程の可視化が、現在の日本にも示唆を与える」と指摘しています。
書籍の内容
本書は以下の章立てとなっています。
- - 序章:拡大する権益、継受される思想
- - 第1章:満蒙概念の誕生
- - 第2章:満蒙供出論の提唱
- - 第3章:満鉄中心主義の前景化
- - 第4章:精神的帝国主義論の提唱
- - 第5章:東亜概念の衝撃
- - 第6章:興亜概念の受容
- - 第7章:東亜新秩序の可能性
- - 第8章:大東亜共栄圏構想の実相
- - 第9章:大東亜共同宣言の虚実
- - 終章:求められる慎慮、問われる外交感覚
この目次を見ると、著者がどれほど深く事象を分解し、因果関係を追求しているかがわかります。日本外交の複雑で厳しい歴史的背景に迫り、現代に通ずる教訓を導き出しているのです。
著者のコメント
熊本教授は受賞を受けて、「このような評価をいただくことは大変光栄」と述べ、研究に支援してきた人々への感謝の意を示しています。また、この書籍が多様な読み方を可能にすることが、自らが目指していたことだと認識しているようです。
経済や政治の視点から
熊本氏が何よりも伝えたいのは、日露戦争後の外交がどのようにして「大東亜共栄圏」につながったのか、そしてそれが今日の国際情勢にどのような意味を持つのかということです。本書で詳細に描かれる歴史的過程が、現在の日本の外交政策における重要な示唆を与えていることは間違いありません。
結論
熊本史雄教授の『外務官僚たちの大東亜共栄圏』は、ただの過去の出来事を回顧するものではなく、現代に生きる私たちにとっても重要な教訓を提供してくれる作品です。これからの日本の外交を考える上でも、ぜひ手に取ってほしい一冊と言えるでしょう。