白糠町のソウルフード「鳥じん」が未来へと受け継がれる物語
北海道白糠町で、地域の味として長年愛されてきた「鳥じん・らむじん・ぶたじん」の製造販売事業が、2026年4月に有限会社とみやストアから白糠印刷株式会社へと承継されることが決まりました。この味付け肉は、焼肉イベントやふるさと納税の返礼品として町民だけでなく全国に親しまれています。
「鳥じん」は、白糠町で育った多くの人にとって、運動会の日や夏休みの夕暮れ時に家族で楽しんだ懐かしい思い出そのものであり、まさに町のアイデンティティを象徴する存在です。しかし、とみやストアの廃業の危機に、「この味を消すわけにはいかない」と立ち上がったのが、白糠印刷株式会社の3代目社長、佐々木啓行さん(45歳)でした。
異業種への挑戦
印刷業から全く異なる肉の加工事業への挑戦は、誰もが一歩踏み出すのが難しいと感じる道のりです。とみやストアの吉松俊幸社長は20年以上にわたり「鳥じん」などの製造を行ってきた人で、その品質を守り続けてきた人物です。彼は白糠町の味を受け継いできた一人であり、吉松社長にとってもこの味は人生そのものでした。
当初、紅茶商の宮本商店から「らむじん」を受け継いだ吉松社長は、今度は佐々木社長という異業種の後継者にバトンを渡すことになります。「鳥じん」の歴史がどうつながれていったのか、両者の出会いとその背景には感慨深いストーリーがあります。
受け継がれる味の背景
吉松社長はこの味を学ぶ中で、「この商品は、自分も人から受け継いだものなんだ」と語ります。白糠町の焼肉文化や地域に根付いた商売の背景には、地域社会の絆が強く存在しています。様々なイベントにおいて、個々の商店がオリジナルの味付け肉を提供してきた結果、町の人々から愛される存在になることができました。
とはいえ、時代の変化も町の商売に影響を及ぼす要因となりました。2019年には消費税率の引き上げやコロナ禍の影響で個人商店が減少していく中、吉松社長は製造販売へ特化し、地元の味を守ることに全力を尽くしました。そして、65歳を目前にした彼は廃業を余儀なくされ、「鳥じん」たちが消滅の危機にあることを察知する佐々木社長は、これを悲しいことと思っていました。
白糠印刷の新たな挑戦
白糠印刷は地域社会でカレンダーやパンフレットの印刷などを手掛けてきた会社ですが、佐々木社長はふるさと納税にも積極的に関わってきました。ECショップ「しらぬか町商店」を通じて町の産品を広めてきた経験が、今回の事業承継においても大きな役割を果たしました。「鳥じん」は町民の思いと密接に結びついており、その存在はただの食べ物にとどまらず、思い出や家族の絆を感じさせる大切なものなのです。
佐々木社長は「この味を自分が次の世代に繋いでいくことが自分の使命だ」と感じ、「もったいない!」という思いから、白糠印刷での製造を決意します。しかし、肉の加工は未経験分野であり不安もありましたが、吉松社長の「俺が全部教えてやるから大丈夫だ」という励ましの言葉は、大きな支えとなりました。
次世代を見据えて
現在、佐々木社長の妻で製造管理責任者の幸希さんと新たに採用したスタッフの三上玲美さんが一緒に製造に取り組んでいます。秘伝のタレを受け継ぎ、地域の人々の大切な味「鳥じん」を守り続ける覚悟を持っています。
「私たちでしっかりと、この味を守っていきます!」と幸希さんも力強く語っています。
白糠町の名物「鳥じん・らむじん・ぶたじん」は、道の駅しらぬか恋問館や町内のスーパー、釧路の和商市場などで取り扱われるほか、ふるさと納税の返礼品として全国へと届けられています。吉松社長は「商売の喜びは儲けることだけじゃない。お客さんに喜ばれながら続けていけること、それが一番だよ」とも話していました。
現代において味を保存し続けることは容易ではありませんが、白糠印刷の佐々木社長の想いと、地域の人々の思い出としての「鳥じん」は、これからも未来へと受け継がれていくことでしょう。彼の言葉には、「自分がその歴史の一部になりたい」という強い決意が込められていました。
白糠町の名物が地域の誇りと共に次の世代へと繋がっていく姿を、ぜひ多くの人に知ってほしいと思います。