新型コロナ前の日本における労働コストと物価の関係を探る分析
はじめに
新型コロナウイルス感染症の拡大以前において、日本の労働コストから物価へのパススルーの関係が議論されてきました。本稿では、1985年から2018年度にかけての都道府県別データを使用し、労働コストが物価に与える影響について詳しく分析します。
労働コストと物価の関係
労働コストは企業にとって重要な要素であり、これがどのように物価に影響するかを理解することは、経済政策を考える上で非常に重要です。特に、労働コストが上昇した場合、企業は価格を引き上げることが一般的です。このようなメカニズムが実際にどの程度機能しているのかを検証します。
研究方法
本研究では、長期的な都道府県パネルデータの構築を行い、パネル自己回帰モデルを使用して分析を行いました。具体的には、ターゲットとなる内生変数として、生産性調整済みの労働コスト、サービス価格、有効求人倍率を設定しました。
分析結果
全サンプル期間を通じて観察された結果、労働コストがサービス価格に対して統計的に有意な影響を持つことが示されました。ただし、1990年代後半以降、日本が低インフレステージに入った時期から、このパススルーの度合いが弱まりました。これは、経済の変化とともに企業の価格戦略が変わった可能性を示唆しています。
サービス業と製造業の違い
次に、1970年代から利用可能な産業別・都道府県別データを基に、サービス業と製造業における労働コストの付加価値デフレータへの影響を分析しました。結果として、両業界ともに1990年代後半以降、パススルーが低下していることが確認されました。また、1990年代前半までは、サービス業において労働コストが上昇する際にパススルーが強くなる非対称性が見られましたが、以降はこの非対称性が消失しました。
結論
この分析を通じて、労働コストから物価へのパススルーのメカニズムが明らかとなりました。特に、日本の経済環境が変化する中で、企業の行動や価格設定も同様に変化してきたことが実証されました。今後の研究や政策形成に向けて、これらの知見が有用であることを期待しています。
以上の結果は、日本銀行が発行した関連研究でも取り上げられています。さらなる詳細に関しては、原著論文をご参照ください。