新たな過酸化水素合成技術の革新
東京都立大学大学院都市環境科学研究科の天野史章教授とその研究チームが、環境に優しい酸化剤である過酸化水素(H₂O₂)を酸素と水を使用して高効率に合成する画期的な技術を開発しました。この技術は、再生可能エネルギーを活用しながら、二酸化炭素を一切排出せずにH₂O₂水溶液を作成することができます。
H₂O₂は消毒や水処理など、広範囲にわたって利用される重要な物質ですが、従来の製造工程では大量の温室効果ガスが排出される問題がありました。特に電解反応による合成法では、電解質に不純物が混入することが多く、使用用途を制限してしまうという課題も存在しました。
今回の研究では、多孔質な電解質膜を用いた新しい電解反応装置を設計し、酸素と水が高濃度で反応可能な環境を生み出しています。この技術によって、空気中の酸素と水のみを原料として、不純物ゼロのH₂O₂水溶液を高効率で生成し、さらに50時間以上にわたり濃度5,000 mg/LのH₂O₂を連続的に製造することに成功しました。
持続可能な製造プロセス
この新技術は、分散型の再生可能エネルギーを使用するため、必要な地点で必要な濃度や量のH₂O₂を製造する地産地消型の取り組みを促進します。これにより、H₂O₂の製造時だけでなく、その在庫管理や配送過程でのCO₂排出も削減することができるのです。安価で高品質なH₂O₂水溶液は、SDGsの目標6「すべての人々に水と衛生の利用可能性を確保する」に寄与する重要な解決策となるでしょう。
研究の背景と最新成果
過酸化水素(H₂O₂)は広範な用途を持つ化学物質として、私たちの生活において非常に重要です。製造方法としては、主にアントラキノン法が用いられていますが、この方法は大量の温室効果ガスを排出しなければなりません。また、高濃度(70%)のH₂O₂が必要なため、輸送時には爆発のリスクも伴います。これに対し、現在の水処理に必要とされる濃度は10%未満が一般的です。このような状況から、必要な場所で必要な量を生成できるオンサイト型の技術が求められるようになっています。
このようなニーズに応えるため、電気化学的手法を利用したH₂O₂の合成が注目されています。特に、再生可能エネルギーを活用することで、カーボンニュートラルな合成方法が実現可能となり、この研究で開発された技術は、その実証に成功しました。
開発技術の具体的な内容
東京都立大学の研究チームは、細かな穴が多く開いた電解質膜を利用しています。この膜は水素イオンを効率よく導入し、気体は通しつつも液体の水はほとんど通さないという特性を持っています。この特性を利用することで、H₂O₂合成反応における効率を大幅に向上させました。
また、陽極に水蒸気を供給し、酸化イリジウムを触媒に用いて、酸素を効果的に生成します。その後、その酸素が陰極に拡散し、純水と共に還元反応を行い、H₂O₂を生成します。この過程では、生成されたH₂O₂を効率よく回収するための工夫が施されています。
今後は触媒性能のさらなる改良や電解装置の最適化が求められ、技術の進化が期待されています。さらに、将来的にはこの技術が持続可能なH₂O₂の生産において重要な役割を果たすことが見込まれています。
研究の意義と影響
今回の研究成果は、H₂O₂を必要な場所で必要な量だけ製造する新たな技術の開発を意味し、化学品のサプライチェーンにおけるCO₂排出を削減することが可能となります。特に、不純物を含まないH₂O₂水溶液の利用は、水処理や飲料水消毒に直接役立ちます。これは、安全で清潔な水を提供し、万人が衛生的な環境にアクセスできる社会の実現につながります。この技術の進展と共に、環境に優しい酸化剤への需要は確実に高まると予想されています。
そのため、この技術は地域に根ざした生産の促進と持続可能な社会の形成に寄与することが期待されています。