小型酵素HARPの進化戦略と新機能の発見
九州大学などの研究チームが、
tRNA前駆体の正確な切断を担う小型酵素HARPの新たな機能と進化戦略を解明しました。この画期的な研究は、2025年7月に発表された成果であり、生命科学の最前線に新しい知見をもたらしました。
研究背景
tRNAはタンパク質合成に不可欠な要素であり、その成熟には特定の切断過程が必要です。特に5'末端は多くの酵素によって切断され、その機能のメカニズムを理解することは重要です。近年、小型リボヌクレアーゼP(RNase P)の一形態であるHARPが注目を集めています。HARPは、12個の分子が集まり星型の構造を形成し、従来のRNase Pとは異なり小型であるため、その機能や進化についての詳細が未解明でした。
研究のアプローチ
研究チームは、クライオ電子顕微鏡を用いてHARPの構造を解析。その結果、HARPが
5'末端と3'末端の両方を切断する「二刀流」の機能を持つことを世界で初めて明らかにしました。HARPの12量体構造は、5'末端の余剰配列の切断のための5つの活性部位に加え、3'末端をも切断する活性を持つ7つの分子を含んでいます。これにより、HARPが最新の進化戦略を示すことが確認されました。
HARPのユニークな特性
HARPはtRNA分子内の距離を正確に測定する「分子定規」としても機能し、切断位置を決定することができます。この機能は、異なるタイプのRNase P酵素でも共通して見られることから、進化の収束的な側面を示唆しています。
研究の意義と今後の展望
本研究の発見は、分子進化の理解を深めただけでなく、
RNA医療の展開に向けた新たな可能性を示しています。特にHARPのような小型酵素を利用したRNA加工ツールの開発が期待されます。さらに、星型構造の形成や切断精度を調査することで、RNAプロセシングのメカニズムを解明し、合成生物学やバイオテクノロジーへの応用に寄与することができます。
まとめ
この研究は、九州大学や岐阜大学、筑波大学などの研究チームによって進められ、国際的な学術誌「Nature Communications」に掲載されました。研究チームは、クライオ電顕の共同利用体制が功を奏し、美しい星型の構造を捉えることができたと述べています。これは新たな酵素機能の発見につながり、今後の研究の楽しさを再確認させてくれました。
今後、HARPの切断機能や生理的意義についてさらなる研究が行われ、RNA代謝の多様性や進化についての理解が深まることが期待されています。