奇跡の帰巣物語「帰ってきたジロー」
2023年12月20日に新装改訂版が発売される『帰ってきたジロー』は、柴犬ジローが730日かけて、預けられた田舎から都会へ帰る感動の実話です。大津市から西宮市までの直線距離は約70キロ。ジローは、飼い主の武内さん一家の生活環境が変わるため、一時的にお母さんの実家に預けられました。
ジローが家族と離れ、自分の元へ戻ろうとする強い思いは、犬としての本能が生み出したものかもしれません。犬は人間の想像を超えた記憶力を持ち、嗅覚や視覚を駆使して周囲の環境を把握しています。しかし、ジローの場合、クルマで移動させられたため、嗅覚だけでは帰る方法を完全に思い出すことは難しかったでしょう。
それでも、彼の心の中には「帰りたい」という思いが強く根付いていました。大好きなお父さんお母さんに会いたいという感情が、過酷なノラ生活を耐え抜く力を与えたのです。1日でも愛犬が行方不明になることの悲しみを想像すると、多くの飼い主が涙をこらえるでしょう。犬はただのペットではなく、家族の一員、ひとりの子供なのです。
武内さん一家にとって、ジローが帰ってきた瞬間はどれほどの喜びだったか想像がつきません。その奇跡的な帰巣を知った周囲の犬好きの人々からも、暖かい手紙が次々と届きました。メディアにも紹介され、ビートたけしさんが司会する番組『奇跡体験!アンビリバボー』ではジローの物語の再現ドラマが放送されるなど、多くの人に感動を与えています。さらに、西田敏行さんが局長を務める『探偵!ナイトスクープ』でも取り上げられました。
ジローはその後も阪神・淡路大震災を乗り越え、22歳まで長生きし続けました。犬の年齢計算によれば、ジローの年齢は人間で言うと百歳を超える長寿です。愛するお母さんとお父さんと共に、家族のもとで安らかな時間を過ごしたのでしょう。ジローの優しい表情を見つめ、思わず「よくぞ帰ってきた、ジロー。ありがとう」と感謝の言葉が漏れます。
本書は1989年に初版が、2005年には続編が発行されたものを合本・改訂し、さらに魅力的に生まれ変わりました。著者の綾野まさる氏は、生命の尊厳をテーマにし、豊かなノンフィクション作品を手がけてきた実力派ライターです。他にも、愛犬ハチ公や南極犬の物語など、多くの心温まる作品を世に送り出しています。
ジローの成し遂げた奇跡の物語は、単なるノンフィクションではなく、愛する者のもとに帰るという普遍的なテーマを持った作品です。これからも多くの人々に感動を与えることでしょう。ジローの幸せな姿を思い浮かべながら、この物語に触れることができることに感謝です。