思い出と食をつなぐエッセイ
著者の椹野道流が初めて世に出す食に関するエッセイ集『あの人と、あのとき、食べた。』が各方面から注目を集めている。この作品は、単なる食に関する記録だけでなく、多くの人とのつながりを食の思い出という形で描写した、読み応えのある一冊に仕上がっている。
人との出会いと食の記憶
本書は、著者が出会った家族や友人、作家仲間、さらにはイギリスの個性的な店主とのエピソードが散りばめられている。彼らと食を囲んだ特別な瞬間が、どのように心に残ったのかを知ることができる。特に、思い出の料理の数々、例えばお正月のうどんすきや母のシチュー、父の最後の晩餐などは、読者自身の食の記憶をも呼び覚ますのだ。
筆者の言葉の中に、思い出の食事がどのように感情を動かすのかが表現されており、料理を通じてで見える人間関係の大切さが感じられる。また、トーマスさんのフィッシュ&チップスや春に食べるたけのこ、クリスマスに欠かせないロースト・チキンなど、特定の料理は四季の風物詩ともマッチしており、時の流れを感じさせる。
思い出と感情の交差点
田辺智加さんの推薦文通り、食べた記憶はそれぞれ異なる感情と結びついている。笑いあり、涙あり、懐かしさを伴う思い出が語られ、読者は自身の過去の記憶が呼び覚まされる。食事がもたらす感情の豊かさを再認識させられるのだ。
また、著者はエッセイの中にレシピを織り込み、独自に調理した料理の写真も多数収載しているため、自宅でも楽しめる要素が満載。料理を作る楽しみだけでなく、その背後にある人間ドラマにも触れられることから、読み終えた後には思わず何かを作りたくなる衝動に駆られるかもしれない。
特別な場所での刊行記念イベント
本書の刊行を記念して、著者は東京と兵庫でトークイベントを行う。11月24日にはジュンク堂書店池袋本店でトークとサイン会を開催し、参加者にはオンライン視聴チケットも用意されている。また、12月6日にはジュンク堂書店三宮店でのサイン会もあり、読者との交流を楽しみにしている様子が伺える。
このように、『あの人と、あのとき、食べた。』は、ただのレシピ集ではなく、思い出をより深く感じることができるエッセイ集である。本書を手に取ることで、あなたも自分自身の食の思い出を思い返し、心温まるひとときを過ごすことができるだろう。日常の中にある特別な瞬間を、また違った視点から楽しむ手助けとなる一冊であることを、ぜひ体感してみてほしい。