研究背景
ブタは家庭で最も大切な家畜であり、世界中で広く消費されている食肉です。また、ブタは異種移植のドナーとしても注目されており、医療分野での役割が増大しています。養豚業において重要なのは、母豚の繁殖成績です。母豚が産む子豚の数は、その農場の生産性に大きな影響を与えるため、この成績を向上させる技術の探求が求められています。
腸内細菌と繁殖成績
最近の研究では、母豚の繁殖成績がその栄養状態や健康に深く結びついていることが示唆されています。さらに腸内細菌との関係も注目を浴びるようになっています。摂南大学の井上教授らのグループは、繁殖成績の高い母豚と低い母豚で腸内細菌の構成に顕著な違いがあることを発見しました。しかし、繁殖成績と腸内細菌の具体的な関連については未解明の部分が多かったのです。
研究の目的
本研究では、母豚の腸内細菌叢の遺伝子を詳しく解析し、その機能を探ることによって繁殖成績との関連メカニズムを解明することを目指しました。その結果、繁殖成績の高い母豚の腸内細菌叢には、食物繊維の分解に関与する遺伝子が多く含まれていることがわかりました。重要な点は、ブタ自身は食物繊維を消化できないということです。しかし、特定の腸内細菌は食物繊維を分解・発酵し、ブタにとってのエネルギー源となる短鎖脂肪酸を生成することができます。
腸内細菌の役割
そのため、食物繊維をうまく分解することができる腸内細菌叢は、母豚にとってより多くの短鎖脂肪酸を作り出す能力があると考えられます。本研究では、繁殖成績の高い母豚の腸内での短鎖脂肪酸の濃度がより高いことも確認されました。また、短鎖脂肪酸には免疫機能を調節したり、ストレスを緩和する効果があることも知られています。このように、生理的健康を維持する腸内細菌叢が繁殖成績向上にも寄与する可能性が高いと言えます。
今後の展望
本研究の成果は、養豚業において新たなアプローチ、すなわち腸内細菌の研究を通じて繁殖成績を向上させることができる可能性を示唆しています。井上教授と三浦特任助教は、母豚の腸内環境を改善する飼料素材を探しており、実用的な技術への応用が期待されています。将来的には、腸内細菌をターゲットにした養豚技術の確立が期待されます。
研究成果の公開
この研究成果は、2024年10月29日付の学術雑誌『microorganisms』に掲載されました。興味のある方は、
こちらからご覧いただけます。
論文情報
- - 論文名: Whole-Genome Metagenomic Analysis of Functional Profiles in the Fecal Microbiome of Farmed Sows with Different Reproductive Performances
- - 著者名: Hiroto Miura, Takamitsu Tsukahara, Ryo Inoue
- - 掲載誌: microorganisms
- - DOI: 10.3390/microorganisms12112180