家庭で利用可能な心不全早期発見AIシステムの進化

近年、心不全は再入院や死亡リスクの高い疾患として多くの人々に影響を及ぼしています。これまで、心不全は病院や専門の医師によるモニタリングが中心でしたが、東京大学の研究チームが新たに開発した人工知能（AI）を活用した心不全早期検出システムにより、自宅でのモニタリングが可能になるという画期的な進展がありました。

何が新しいのか？

このシステムは、携帯型心電計を用いて取得した単一誘導心電図データをAIによって解析します。特に、心不全の重症度を91.6%の高精度で分類できることが実証され、これまでの心臓電気デバイスに依存することなく、スマートウォッチを含む携帯機器で手軽に測定することができるようになりました。この画期的な取り組みは、心不全患者が自宅で病状をモニタリングし、再入院のリスクを低減できる可能性を示唆しています。

心不全の早期発見はなぜ重要か？

心不全は、症状が悪化する前に早期に発見し、適切な治療を行うことが重要な病気です。この新システムが実現することで、患者は自宅で心不全の進行を早期に察知でき、迅速な医療介入を受けられる可能性が高まります。これにより、患者の生活の質も向上することが期待されます。

ハードウェアとAIの連携

研究チームは、畳み込みニューラルネットワーク（CNN）を用いてAIモデルを構築しました。これにより、家庭で利用できる単一誘導心電図を用いて、心不全の進行度を判定するシステムを開発しました。研究に使用されたデータは9,518名の心不全患者と健康な参加者の心電図データです。AIが心不全の重症度をリアルタイムで数値化する独自の指標「HFインデックス」を導入し、これによって心不全の判断をより精緻に行うことが可能となりました。

特に、これまで心不全の判定において課題となっていた、左室収縮能が保たれている心不全（HFpEF）にも対応している点が評価されています。従来のAIモデルは左室収縮能が低下したタイプの心不全（HFrEF）に集中していましたが、新しいモデルは両方のタイプを対象に判断を行うことができるようになっています。

実用化の見通し

心不全の進行を自宅で把握できることは、入院を避けるために非常に意義深いものです。入院してからでは遅い場合も多く、日頃からのセルフモニタリングが患者の健康管理に貢献します。また、遠隔医療の進展により、医師と患者の連携も強化され、医療環境の向上が期待されています。

本成果は、技術的な革新だけでなく、心不全患者の生活の質を向上させる道筋を示しています。東京大学とSIMPLEX QUANTUM株式会社の共同によるこの研究成果は、「International Journal of Cardiology」にも掲載され、さらなる注目を集めているところです。