生成AIが明かす人的資本開示の実態
近年、企業の持続的な成長と競争力強化を実現するために、人的資本経営の重要性が増しています。その背景として、有価証券報告書での人的資本情報の開示が求められるようになりました。本稿では、ChatGPTを活用して約4000社の有価証券報告書に関する人的資本開示の実態を分析し、お手本となる企業や業界傾向を探ります。
調査の背景と目的
情報過多の時代にあって、企業が人的資本の取り組みをどのように開示するかは非常に重要な課題です。私たちはAIを用いて、約4000社の報告書を分析することによって、人的資本開示の現状や課題を具体的に把握することを目的としました。この調査では、有人でのレビューが困難なほど膨大な情報量をAIが効率的に処理できる点に注目しました。
調査結果の概要
実施した分析は、2024年1月から7月にかけて公開された3613社の有価証券報告書を対象としました。結果として、開示スコアは以下のように分布しました。
- - 満点(積極的開示): 約21%の企業
- - 平均点以上満点未満(必要情報プラスアルファ): 約32%の企業
- - 平均点未満(最小限の開示): 約47%の企業
日経225企業に特化した場合、
- - 満点: 約34%
- - 平均点以上満点未満: 約39%
- - 平均点未満: 約27%
これらの結果から、日経225企業は他の企業に比べ、より積極的な人的資本開示が行われていることが分かります。しかし、依然として27〜28%の企業は開示が最小限に留まっているため、さらなる改善が求められます。
プライム市場とその他の市場
さらに細分化すると、プライム市場の企業は次のような傾向が見られました。
- - 満点: 約32%
- - 平均点以上満点未満: 約40%
- - 平均点未満: 約28%
対して、スタンダード市場やグロース市場ではスコアの割合が低く、特にグロース市場は約63%が平均点未満という結果が出ました。このことから、プライム市場の企業が人的資本開示において充実した内容を持つことが浮き彫りになりました。
AIと人間の評価の違い
AIと人間の評価には様々な差異が見られ、「具体性」や「戦略との関連性」において相関が低くなる傾向があります。この要因として挙げられるのは、AIが明記された情報のみを評価する一方で、人間は文脈や背景知識を基に評価を行う点です。これにより、今後はAIでも理解できるような、より明確で具体的な情報開示が求められます。
今後の展望
人的資本開示が義務化されてから日が浅く、企業にとってはその体制を整える必要があります。AIを用いた情報収集が一般化する中で、企業は投資家や取引先に対し透明性のある情報提供を行うことが重要です。人的資本への取り組みをより具現化し、関連するKPIとの繋がりを明確に示すことが企業価値を高めるための鍵となります。
今後、生成AIを活用したスコア化を継続することで、人的資本開示の改善が期待され、企業の成長にも寄与することでしょう。
著者情報
山岡慎治(J.P.コンサルティング株式会社 シニアコンサルタント)
SNSマーケティング会社での経営管理業務を経て、現在人事コンサルタントとして活躍。最近は生成AIを利用した業務効率化に注力している。