自閉スペクトラム症と知覚過敏の関係性を探る研究成果
近年、自閉スペクトラム症(ASD)を有する人たちの知覚特性に関する研究が注目を集めています。特に、感覚過敏に関しては、その背景にあるメカニズムの理解が進むことで、支援方法や環境設計へのヒントが得られることが期待されています。今次の研究では、自閉スペクトラム症者の知覚における「事前情報不全説」が検証されました。この理論は、自閉スペクトラム症を有する人々が事前の経験を知覚過程に統合できず、その結果として感覚過敏が生じるというものです。
研究の背景と目的
自閉スペクトラム症を持つ人々は、一般的にコミュニケーションの困難さを抱えることが知られています。しかし、彼らが経験する感覚過敏がどのように発生するかという点は、十分に理解されていません。例えば、強い音や明るい光、特定の衣服に対して過敏に反応することが多く見られます。この研究では、「事前情報不全説」が提唱されており、脳が事前の経験を基に感覚信号を処理する際、その情報が利用されないことで感覚過敏が助長されると考えられています。
研究方法と実験結果
本研究では、定型発達者と自閉スペクトラム症者を対象に、触覚刺激に対する時間順序の判断を行う心理物理学的実験を実施しました。具体的には、左右の手に同時に触覚刺激を与え、どちらの手が先に感じたかを参加者に判断してもらうというものでした。この実験を通じて、参加者が事前の経験に基づいて判断を下す能力がどの程度かを評価しました。
実験の結果、定型発達者の中で自閉スペクトラム症の傾向が低い参加者は、事前情報を利用する傾向が見られました。一方、自閉スペクトラム症特有の傾向が強い参加者は、事前情報を利用することができず、刺激のノイズがそのまま知覚されてしまうことが明らかになりました。これにより、ASDを持つ人々の知覚特性を理解するための新たな視点が提供されました。
研究の意義と今後の展望
この研究の重要な成果は、自閉スペクトラム症者の感覚的症状の背後にある理論を支持するエビデンスを提供することです。今後の研究では、この知見を基に自閉スペクトラム症の定量的な診断方法や、感覚過敏を減少させるための環境設計が進むことが期待されています。また、スポーツや運動における不得手さも自身の特徴として挙げられますが、この仮説は自閉スペクトラム症者の運動行動にも当てはまる可能性があります。
この研究は、国立障害者リハビリテーションセンターと静岡大学、東京大学の共同チームによるもので、成果はSpringer Nature社発行の「Journal of Autism and Developmental Disorders」にて発表される予定です。今後も自閉スペクトラム症に関する知見の蓄積を通じて、より良い支援や環境づくりにつながっていくことが期待されます。
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