画期的なスロー地震検出手法の開発
近年、スロー地震のメカニズム理解が進む中、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)と東北大学が共同で新たなテクトニック微動検出手法を開発しました。この技法は、高度な機械学習技術を活用し、海域でのスロー地震を高感度に捉えることを可能にしています。
1. スロー地震とは何か?
地震とは、地殻のひずみが断層すべりによって解放される現象を指し、通常の地震よりもゆっくりとした動きで進行するスロー地震も含まれます。スロー地震は多くのプレート境界で観察され、特に日本海溝では近年重要視されています。大地震の発生に先行してスロー地震が観測されることが多く、そのメカニズム解明は非常に重要です。
2. 機械学習を用いた新手法
産総研の研究チームは、このスロー地震の一形態であるテクトニック微動を識別するために、特に開発した機械学習モデル【DiET】を用いました。このモデルは、地震波形の時間変化を学習し、観測点ごとにテクトニック微動を自動的に分類することができます。これにより、以前の方法では検出が難しかったテクトニック微動を、高い精度で識別できるようになりました。
その結果、8年間の地震波形データから、従来の7倍にあたる数のテクトニック微動が確認され、地震活動の理解に新たな光が当たりました。特に、これまで検出されなかった場所での動きも捉えることができ、プレート境界でのひずみの蓄積状況や解放状態の評価に貢献すると期待されています。
3. 研究の背景と意義
近年、東日本大震災を契機に、地震予測の重要性が高まっています。特に、日本海溝は大陸プレートの下に海洋プレートが沈み込む場所であり、これによって蓄積されるひずみが将来的な大地震につながる可能性があります。このため、スロー地震やテクトニック微動の詳細なモニタリングが求められています。
開発された新手法は、従来の地震観測技術を大きく進展させるものであり、将来の地震予測の精度向上につながるでしょう。
4. 今後の展望
今後の研究では、日本海溝に限定せず、他のプレート境界でもこの方法を導入し、スロー地震の活動様式やメカニズムを網羅的に調査していく予定です。この技術のさらなる深化は、私たちの地震に対する理解を深めるだけでなく、災害リスクの軽減につながると考えられます。
5. 研究成果の発表
本研究は、2025年に「Journal of Geophysical Research: Solid Earth」に掲載され、地震科学における新たな知見を提供しました。これにより、スロー地震研究における重要なステップとなったと同時に、地震予測技術の発展への期待も高まります。
地震の未然防止に向けた取り組みとして、今後も研究者たちは、この技術を活用して新たな発見を目指し、私たちの安全な社会を築くための努力を続けていくことでしょう。