橋梁点検におけるAIとデジタル画像の革新
近年、インフラの老朽化が進む中で、橋梁の点検作業の重要性が高まっています。日本全国で多くの橋が建設されてきた高度成長期以降、その維持管理が十分に行われていない現状があります。これを受け、国土交通省は定期点検を義務付けていますが、点検方法には多くの課題が存在しています。
その中、キヤノン株式会社は東京都大田区、そして東京科学大学と連携し、デジタル画像とAIを融合した橋梁点検の手法を検証してきました。この取り組みは、限られた時間と人手に依存する現行の点検手法に対する革新を目指しています。
AIとデジタル画像の活用
これまでの橋梁点検は、近接目視が基本とされ、技術者の経験やスキルに依存していました。しかし、技術者の高齢化が進む現代において、この手法だけでは持続可能性が失われてしまいます。特に、鉄道の下を通過するこ線橋の点検では、夜間の作業を余儀なくされており、その効率化が求められていました。
そこで、キヤノンは2019年に「インスペクション EYE for インフラ」というサービスを開始しました。これは、カメラとAIを活用し、点検対象のコンクリートひび割れや鉄筋露出を迅速に検知する技術です。このサービスを活かし、今回の検証が行われました。
検証の成果
今回の取り組みでは、点検対象となるこ線橋および横断歩道橋に対して、デジタル画像を用いた点検手法の有用性が確認されました。特に、夜間のこ線橋の点検では、撮影した画像を持ち帰り分析することで、近接目視と同等の結果が得られることが明らかになりました。これにより、現地作業は撮影のみとなり、時間と人手の大幅なコスト削減が可能となりました。
また、横断歩道橋に関しては、望遠レンズとミラーレスカメラを使用して、交通量が多い日中でも交通規制をかけずに点検作業が行えることが証明されました。
持続可能なまちづくりへ
この取り組みは、キヤノンと大田区が締結した包括連携協定に基づいて進められています。今後、両者はドローンによる小規模河川橋点検や、持ち運び可能なカメラを用いた橋面点検にも取り組む予定です。AIとデジタル技術の導入により、インフラ維持管理の現場にも革新が期待されており、社会課題の解決に貢献することは間違いないでしょう。
未来への展望
キヤノンは今後も「インスペクション EYE for インフラ」を通じて、技術の進化を続ける意向を示しています。この取り組みを通じて、未来の維持管理が人手に依存しない持続可能な社会を実現へと導くことが目指されています。合意された内容は論文としても発表され、2025年の「デジタルツイン・DXシンポジウム2025」でその成果が披露される予定です。
人手不足や労働力人口の減少という国全体の課題を解決するために、今後も産官学の連携が重要になってくるでしょう。