早稲田大学が開発した新たな脱アシル型クロスカップリング反応
早稲田大学理工学術院の研究グループが、新たな「脱アシル型クロスカップリング反応」を開発しました。これにより、芳香族ケトンをさまざまな化合物へ変換する手法が確立され、医薬品合成や材料科学における広範な応用が期待されています。
クロスカップリング反応とその重要性
クロスカップリング反応は、ノーベル化学賞も受賞した重要な手法であり、芳香族化合物の合成において大変有効です。これまでは主にハロゲンを含む化合物との反応が中心でした。近年、炭素―酸素や炭素―窒素の結合を持つ化合物に対する反応も開発されていますが、芳香族ケトンはその利用が難しいとされてきました。この新しい手法の開発により、これまでクロスカップリングに利用できなかった芳香族ケトンが反応可能になり、化学合成の可能性が広がります。
新手法の仕組み
新たに開発された脱アシル型クロスカップリング反応は、芳香族ケトンを古典的な「クライゼン縮合」および「逆クライゼン縮合」という反応を活用し、芳香族エステルに変換します。このワンポットプロセスにより、芳香族ケトンは多様な相手化合物との反応を促進し、新しい化合物の合成が可能となります。
高効率の反応
研究グループの特徴は、パラジウムやニッケル触媒を使用し、最多7種類の反応剤との反応に成功した点です。この手法により、医薬品合成や材料科学で新しい合成法の確立が期待されており、環境問題に配慮しつつ副生成物を抑えるアプローチも模索されています。
研究の波及効果
この新しいクロスカップリング反応は、医薬品や材料科学だけでなく、広範な分野に波及効果をもたらすと考えられています。今後、さらなる触媒の開発を進め、反応の効率を向上させることが期待されています。研究をリードする山口潤一郎教授は、この技術が化学反応の新しい可能性を開くものであるとし、今後の研究に対して明るい展望を抱いています。
研究の今後の課題
新たに開発されたこのワンポットプロセスは、ケトンを効率よくエステルに変換する手法でありながら、収率を向上させるためには高温での反応が必要です。そのため、より低温で進行可能な手法の開発が今後の課題となります。また、環境負荷を考えた無副生成の方法論の確立も急務です。
研究者のコメント
「この成果は長年の努力の結晶であり、芳香族ケトンという難題を解決することができました。新たな食材とレシピを化学の世界に提供できたと思っています。引き続き、新しい触媒の開発を通じて、さまざまな分野での応用を期待しています。」と山口教授は語ります。
研究成果は、2024年7月29日にCell Press社『Chem』のオンライン版に掲載されいます。