二酸化炭素からのギ酸合成技術の開発
再生可能なエネルギーの利用拡大に向け、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)と筑波大学大学院の研究者たちが新たな技術を発表しました。この技術は、二酸化炭素(CO2)と水素から高効率で直接ギ酸(HCOOH)を合成することを可能にします。
ギ酸の重要性と従来の課題
ギ酸は水素キャリアとして注目されており、高いエネルギー密度や安全性から、多くの分野での利用が期待されています。しかし、従来の製造方法では、ギ酸塩を経由して酸処理が必要で、コストや工程数が問題でした。この技術的課題を克服するために、産総研は新たにヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を溶媒として使用し、イリジウム触媒による直接合成技術を開発しました。
新技術のポイント
研究チームは、HFIP中でギ酸の分解速度を抑えることを発見し、特にギ酸中間体であるイリジウムヒドリド錯体の生成速度が水中の4倍以上になることを確認しました。これにより、ギ酸を直接合成する効率が高まり、従来よりも迅速に高純度のギ酸を得ることが可能となりました。
特徴的なのは、この技術が二酸化炭素を再利用しつつ、ギ酸から水素を生成できる点です。これにより、排出される二酸化炭素量を大幅に削減しながら水素社会の実現に貢献できると期待されています。
対応する環境への影響
カーボンニュートラル社会を目指す上で、この技術は重要な役割を果たす可能性があります。2030年を見据えて、実証実験やスケールアップが計画されており、将来的にはこのシステムを日本国内で広く実装することが目指されています。さらに、ギ酸は工業的に一酸化炭素とメタノールを反応させて製造されることが一般的ですが、この技術によってより持続可能なギ酸生産が可能になるでしょう。
今後の展望
研究チームは、現在の技術をさらに発展させるために、ギ酸を用いた電気化学的な合成法やバイオマスからの合成法など、さまざまな手法を総合的に活用したシステム作りを目指しています。これにより、ギ酸は今後ますます多様な方法で利用される水素キャリアとしての地位を固めるでしょう。
この技術は、2050年に向けた温室効果ガス排出削減の目標に向かって、環境に優しいエネルギー社会の実現をサポートする重要なステップとなるでしょう。実際の応用が進むことにより、持続可能な社会の実現に寄与できることが期待されています。