整形外科における新たなリアルワールドデータプロジェクトが始動
新医療リアルワールドデータ研究機構(PRiME-R)が、京都大学医学部附属病院と連携し、整形外科領域でのリアルワールドデータ(RWD)収集プロジェクトを正式に開始しました。このプロジェクトは、関節疾患の治療に関する幅広いデータを収集することを目的としており、日本国内での医療の質向上や学術研究の加速、そして患者に個別化された最適な治療を提供することを目指しています。
1. 背景
変形性関節症を含む関節疾患は、世界中で健康寿命を縮める要因として大きく影響しています。特に日本では、介護保険における要支援の主な原因の19.3%が関節疾患によるものであり、患者数は膝関節単体でも約3,000万人に達するとされています。さらに、末期関関節症に対する人工関節手術の件数は年々増加しており、その解決が急務となっています。
既存のRWDとしては、日本整形外科学会の人工関節レジストリ調査(JOANR)がありますが、これが末期の関節症患者のみを対象としているため、広範囲なデータ収集には限界がありました。しかし、この新しいプロジェクトでは、有症状の関節症患者を広く対象とし、詳細なデータを蓄積することで、患者ひとりひとりに最適な治療法を見つけることを狙っています。
2. プロジェクトの概要
本プロジェクトは、京都大学医学部附属病院を中核に、複数の医療機関や民間企業が協力して整形外科関連のRWDを収集していきます。現時点では、京都大学、近畿大学病院、倉敷中央病院、大阪赤十字病院の4つの医療機関から、4,698症例の後ろ向きデータが蓄積されています。これらのデータは10年以上の長期フォローアップによるもので、医療サービスの質向上や、新薬や医療機器の開発に活用される予定です。
また、日本整形外科学会からの研究費が支給され、シンポジウムでも本プロジェクトが取り上げられるなど、医療界からの関心も高まっています。
3. 今後の展開
2025年からは、前向きデータの収集も開始される予定です。これに向けて、2023年中に民間企業を含む複数の医療機関が協議を重ね、データ項目を決定する作業が進行中です。前向きデータ収集によって、患者の初診時からデータを集めることで、後ろ向きデータでは得られない情報を網羅的に追跡し、より貴重なデータを形成していくことが可能となります。
今後は、プロジェクトに参加する施設を拡大し、協力する企業を募ることで、さらなるデータの蓄積とその活用を図る考えです。これにより、整形外科医療の未来が一層明るくなることが期待されています。