カンヌライオンズ2024レポート:AIとインクルージョン、そしてユーモアが語る世界の広告トレンド
2024年6月、南フランスのカンヌで開催された世界最大の広告祭「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル2024」に参加してきました。今回は、東京とロサンゼルスを拠点に広告やコンテンツ制作、戦略を手掛けるMt.MELVILでビジネスデベロッパーとして働く私が、このイベントで得た気づきをレポートします。
AIとクリエイティビティの共存
近年、広告業界で最も注目されているのはAIでしょう。カンヌライオンズ2024でも、AIがクリエイティブと共存する時代が到来していることを強く感じました。多くのクリエイターが「AIが私たちの仕事を奪うのか」という疑問を抱いている一方で、カンヌではAIがすでにクリエイティブプロセスに不可欠なツールとして受け入れられている状況でした。
しかし、AIが得意とするのは効率性であり、人間の「共感」を理解することはできません。共感こそがクリエイティブな表現を深め、消費者に響くメッセージを生み出すカギであり、AIでは決して代替できません。
世界が求める「インクルージョン」
世界を舞台にした広告において、「共感」を深めるためには、「ダイバーシティ&インクルージョン」の理解と実践が不可欠です。カンヌライオンズ2024では、様々な背景、状況、個性を持つ人々を理解し、社会に包摂していく「インクルージョン」が重要な議論となりました。
特に、身体的なハンディキャップを持つパラリンピック選手や社会活動家など、これまであまりスポットライトを浴びてこなかった人々がシークレットスピーカーとして登壇したことは印象的でした。彼らは、障がいを持つ人々を社会の一部として当たり前のように受け入れることの重要性を訴え、その存在を可視化することで、より共感性の高いクリエイティブな表現が可能になると主張しました。
しかし、現状では多くの広告やサービスにおいて、障がいを持つ人々やマイノリティが十分に表現されていないのが現実です。世界保健機関によると、世界中で10億人以上が障がいを経験しており、ほぼ全ての人が一生に一度は障がいを経験するとされています。にもかかわらず、広告の世界では、彼らが社会に存在することを当たり前として扱っていない例が多く見られます。
ダイバーシティの概念は、人種や性別といった表面的な違いではなく、障がい、年齢、性的指向など、あらゆる違いを受け入れる「インクルージョン」へと進化していることをカンヌライオンズ2024は示唆しています。
日本の広告界に見る課題
カンヌライオンズ2024で得た学びは、日本の広告界が抱える課題を浮き彫りにしました。日本では、ダイバーシティといえば、男女の比率を改善することや、特定の人種や文化を代表する人を登用することに重点が置かれているように感じます。しかし、世界はすでにその次の段階へ進んでおり、あらゆる人を平等に扱い、社会に参画させる「インクルージョン」の実践を求めているのです。
日本の広告界は、多様な価値観を持つ人々を理解し、彼らの声を届けることで、より深みのあるクリエイティブ表現を生み出す可能性を秘めているのではないでしょうか。
ユーモアが再び重要視される
カンヌライオンズ2024では、「ユーモア」が再び注目されていることも感じました。コロナ禍を経て、ユーモアが不謹慎と捉えられがちでしたが、今後は再びユーモアを効果的に活用する必要があるという声が高まっています。
実際に、アメリカではスーパーボウルで放送されたマヨネーズのCMが、ユーモアを駆使した内容で大きな話題となりました。ユーモアは、真面目なイメージのブランドであっても、親近感や共感を生み出し、消費者の心を掴む強力なツールとなるでしょう。
日本の企業が世界に学ぶべきこと
カンヌライオンズ2024では、世界的な企業のマーケターが積極的に参加しており、最新のマーケティング戦略やトレンドを学ぶ場となっています。日本の企業も積極的にマーケターをカンヌに送り込み、世界基準のマーケティングを学び、日本に持ち帰るべきだと感じました。
日本の企業が世界で活躍するためには、万人受けを狙うだけでなく、世界で評価されるような独創的なクリエイティブに挑戦する勇気が必要です。カンヌライオンズで得た学びを活かし、日本の企業が世界に通用するクリエイティブを生み出すことを期待しています。
まとめ
カンヌライオンズ2024で得た学びは、日本の広告界が世界のトレンドから遅れを取っている現状を改めて認識させられるものでした。AI、インクルージョン、ユーモアなど、世界が注目するキーワードを参考に、日本の企業も変化を恐れずに、より創造性豊かな広告の世界を創造していくべきだと感じます。